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【論文紹介】スタティック or ダイナミックストレッチングを組み込んだウォームアップルーティーンがエリートジュニアテニスプレイヤーの競技特異的パフォーマンスに与える影響

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Acute and Time-Course Effects of Traditional and Dynamic Warm-Up Routines in Young Elite Junior Tennis Players

Francisco Ayala, Víctor Moreno-Pérez , Francisco J. Vera-Garcia , Manuel Moya , David Sanz-Rivas, Jaime Fernandez-Fernandez
PLoS One. 2016; 11(4): e0152790.
Published online 2016 Apr 12. doi:  10.1371/journal.pone.0152790

目的:テニス選手にとって,最適なウォームアップルーティーンを調査

スタティックストレッチングが、直後の筋パフォーマンスを低下させることは、これまでの研究で報告されている[1,2]。しかし、スタティックストレッチングのネガティブな影響は、そのあとに競技特異的なウォームアップを行ったとしても持続するのかどうかは十分に知られていない。現状では、競技特異的な動作を行うことでスタティックストレッチングのネガティブな影響を打ち消すとの報告[3,4]と、そうではないと否定する報告がある[5,6]。

また、先行研究には実験手順における問題点として以下のものが挙げられる。
(1)現場とは異なる実施形態であること(ひとつの筋を長時間伸ばしすぎている *研究によっては3~60分間)
(2)ひとつの筋の変化しか調査されていない(多くの場合はハムストリングス or 腓腹筋・ヒラメ筋)
(3)筋パフォーマンスの測定が限定的(多くの場合は等張性収縮 or 等速性収縮)

そのため、現場の実施状況に則したウォームアップ手順が競技特異的なパフォーマンスに与える影響を調査する必要がある

そこで、本研究はエリートジュニアテニスプレイヤーを対象に、2つの異なるウォームアップルーティーン(スタティック or ダイナミックストレッチングを含む構成)がパフォーマンスに与える影響を調査することを目的とした。また、それぞれのウォームアップによるパフォーマンス変化が、どのような経時変化を示すかを検討した。

方法

被験者

ITF(国際テニス連盟)ジュニアランキング トップ100に入る男性のテニスプレイヤー12名
年齢16.8±0.3歳、体重73.4±6.4kg、身長182.1±3.2㎝

研究デザイン

実験はカウンターバランスクロスオーバーデザインで行われた。
実験手順は以下のとおり。

一連のウォームアップは15~20分間実施された。

まず、被験者は自身が決めたペース(低~中程度強度)でのランニング(前後・サイドステップ・一般的なモビライゼーション動作を含む)を4~5分間行い、そのあと割り当てに従いスタティックストレッチングもしくはダイナミックストレッチングを実施した。スタティックストレッチングとダイナミックストレッチングの内容については後述する。

その後、テニスの競技特異的なウォームアップ(コート上でストローク、ボレー、サーブ)を6~8分間、続いてバリスティックなエクササイズ(シングルホップジャンプ5回、オルタネイトレッグバウンディング5回、テニスボール無しで行うサービスモーションスロー5回、前方および横方向への短い距離(2~3m)の加速と減速)を行った。

上図で示したウォームアップの構成は、ITFが推奨しており、テニスプレイヤーがよく用いる内容である。(=現場に則しているルーティーン)

ストレッチング部分の実施内容は以下のとおり。

スタティックストレッチング
以下の部位のストレッチングを30秒×2セット行った。腓腹筋・ヒラメ筋・ハムストリングス・殿筋群・内転筋群・大腿四頭筋・肩関節後部・上腕三頭筋・肩関節外旋筋群・大胸筋・三角筋・上腕二頭筋・手関節掌屈筋群・手関節背屈筋群。

ダイナミックストレッチング
以下の種目を低強度から高強度へと3セット実施した。ストレートレッグマーチ・フォワードランジwithオポジットアームリーチ・フォワードランジwithエルボーインステップ・ラテラルランジ・トランクローテーション・マルチディレクションスキップ。

測定項目は上図で示したとおりであり、
1.ウォームアップ終了後
2.シミュレーションマッチ30分経過時点
3.シミュレーションマッチ終了後(=60分経過時点) にそれぞれ実施された。

 

結果

 

考察:スタティックストレッチングの実施タイミングに注意

ダイナミックストレッチングを組み込んだウォームアップルーティーンは、スタティックストレッチングを組み込んだときよりも高いパフォーマンスをもたらした

また、ダイナミックストレッチング実施時の各指標がほぼ直線であることから、スタティックストレッチングを用いたルーティーンは一時的にパフォーマンスの低下を招いていたことが示唆された。

スタティックストレッチング実施によるパフォーマンスの低下が持続する時間は先行研究によると、10分間[7]や60分間[8]が報告されている。これに本研究結果を合わせて考えると、試合に臨むにあたってスタティックストレッチングを欠かしたくない選手は、少なくとも試合開始30分前にはスタティックストレッチングを終えておくことが望ましいということになる。

本研究は研究デザイン的に、ダイナミックストレッチング自体がパフォーマンスに対してポジティブな影響を与えたということを、はっきりと明らかにできるものではないが、先行研究において、ダイナミックストレッチングがジャンプ高やスプリントタイム、サーブスピードの向上をもたらしたことが報告されている[9-11]。

 

現場への応用:スタティックストレッチングの取り入れ方を考える

エリートジュニアテニスプレイヤーにおいて、ハイレベルなパフォーマンスを実現するためには、ダイナミックストレッチングを組み込んだウォームアップルーティーンが推奨される。そして、とくに今回のような若い世代においては、柔軟性を獲得するためのスタティックストレッチングの実施と、ウォームアップに組み込むときのそれとを区別できるようにS&Cコーチが選手たちを教育することが重要である。
本研究とは違ったダイナミックストレッチングのボリューム・強度での実施や、アスリートのレベル・年齢等が異なる場合についても明らかにするためには、さらなる研究が必要である。

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個人的感想

本研究は、なるべく現場に則した形式であり、かつハイレベルな選手をリクルートしたという点においても貴重な研究だと思います。内容はテニスに特異的なものなので、他の競技にそのまま適用できるかは検討が必要ですが、スタティックストレッチングのネガティブな影響が想像以上に持続していた点は非常に興味深いです。

また、原文のDiscussionでも触れられていますが、ダイナミックストレッチング実施時と比較してスタティックストレッチングを行ったときはサーブスピードが4%、サーブの正確性が11%低下しており、この結果はハイレベルな選手にとっては重要な問題です。
ただし、Behm and Kibele(2007)が「スタティックストレッチングによるパフォーマンスの低下は一般人やアマチュア選手にとっては大した問題ではない。一方で、わずかな差が勝敗を決するエリート選手にとっては重大な問題である。[12]」と指摘しているように、今回の研究結果があるからといって、レクリエーション目的の一般の方に対して、スタティックストレッチングを厳格に禁止する必要はないと思います。その人にとって、スタティックストレッチングが心理的な準備に役立つのであれば、あるいはダイナミックストレッチングを行うとかえって疲労を招く等の可能性があれば、本研究とは状況が違ってきます。やはり対象者によってスタティックストレッチング採用の可否を判断するのがよいと思います。

参考文献

1.Kay AD, Blazevich AJ. Effect of acute static stretch on maximal muscle performance: a systematic review. Med Sci Sports Exerc. 2012; 44(1):154–64.

2.Simic L, Sarabon N, Markovic G. Does pre‐exercise static stretching inhibit maximal muscular performance? Scand J Med Sci Sports. 2013; 23(2):131–48.

3.Taylor KL, Sheppard JM, Lee H, Plummer N. Negative effect of static stretching restored when combined with a sport specific warm-up component. J Sci Med Sport. 2009; 12(6):657–61.

4.Bishop D, Middleton G. Effects of static stretching following a dynamic warm-up on speed, agility and power. J Hum Sport Exerc. 2013; 8(2);391–400

5.Carvalho FL, Carvalho MC, Simao R, Gomes TM, Costa PB, Neto LB, et al. Acute effects of a warm-up including active, passive, and dynamic stretching on vertical jump performance. J Strength Cond Res. 2012; 26(9):2447–52.

6.Perrier ET, Pavol MJ, Hoffman MA. The acute effects of a warm-up including static or dynamic stretching on countermovement jump height, reaction time, and flexibility. J Strength Cond Res. 2011; 25 (7):1925–31.

7.Mizuno T, Matsumoto M, Umemura Y. Decrements in stiffness are restored within 10 min. Int J Sports Med. 2013; 34(6):484–90

8.Fowles J, Sale D, MacDougall J. Reduced strength after passive stretch of the human plantarflexors. J Appl Physiol. 2000; 89(3):1179–88.

9.Little T, Williams AG. Effects of differential stretching protocols during warm-ups on high-speed motor capacities in professional soccer players. J Strength Cond Res. 2006; 20(1):203–07.

10.Fletcher IM, Monte-Colombo MM. An investigation into the effects of different warm-up modalities on specific motor skills related to soccer performance. J Strength Cond Res. 2010; 24(8):2096–101.

11.Gelen E, Dede M, Bergun Meric Bingul CB, Aydin M. Acute Effects of Static Stretching, Dynamic Exercises, and High Volume Upper Extremity Plyometric Activity on Tennis Serve Performance. J Sports Sci Med. 2012; 11(4):600.

12.Behm, D. G. & Kibele, A. Effects of differing intensities of static stretching on jump performance. Eur. J. Appl. Physiol. 2007; 101, 587–594