セミナー情報:11月17日-NSCAプロバイダーセミナー「パーソナルトレーナーのための現場で活かす研究論文の読み方」

【論文紹介】「静的ストレッチはパフォーマンスを上げる」と信じていれば、直後のパフォーマンスは向上するか?

期待

静的ストレッチングが直後のパフォーマンスを下げるという報告は多くありますが、そのネガティブな変化には「運動前に静的ストレッチングは良くない」という本人の心理面も影響しているのではないか、ということを調べた研究です。

Does the Expectancy on the Static Stretching Effect Interfere With Strength-Endurance Performance?

Bertolaccini AL, da Silva AA, Teixeira EL, Schoenfeld BJ, de Salles Painelli V.
J Strength Cond Res. 2019 Apr 17. doi: 10.1519/JSC.0000000000003168.[Epub ahead of print]

介入効果に対する被験者の期待感が、プラセボ効果により、研究結果を過度に偏らせる可能性があることは広く知られている。プラセボ効果とは、介入に対する個人の期待感により結果が変わることを意味し、被験者だけではなく、研究者の期待も影響する。

静的ストレッチングの効果についての期待感が、トレーニングのトータルボリュームに影響を与えるかを調べた研究は存在しない。

そこで本研究は、静的ストレッチングのパフォーマンスへの影響に対する期待感が、筋力トレーニングの挙上回数に与える影響を調べることを目的とした。

方法

被験者

被験者は、19~40歳のトレーニング習慣のある男性18名であった。週3~4回のトレーニングを行っているが、競技会等への出場はない。

被験者は以下の2群のいずれかにランダムに振り分けられた。

1.静的ストレッチングが筋パフォーマンスに好影響を与えると信じさせるような情報を与えられたポジティブバイアス群

2.静的ストレッチングが筋パフォーマンスに悪影響を与えると信じさせるような情報を与えられたネガティブバイアス群

振り分けた結果、両群のステータスは以下のとおり。

被験者ステータス

各群の被験者は、それぞれストレッチング条件とコントロール条件の測定を別日に行った。

実験手順

ストレッチング条件の実験の流れは以下のとおり。

実験手順

*コントロール条件は、上記の流れのうち「静的ストレッチング」のところを、休憩に差し替えた内容を実施した。

静的ストレッチング

大腿四頭筋をターゲットとした静的ストレッチングを3種目実施した。各種目30秒×3セット実施し、セットと種目の間はそれぞれ30秒間の休憩を入れたため、静的ストレッチングにかかった全体の時間は9分間であった。

挙上回数テスト

種目は片脚のレッグエクステンションを採用した。テストを行う前に、テストで使う重量の50%の負荷でウォームアップを8回行った。2分間の休憩後、テスト重量の70%の負荷で、さらに3回行った。

挙上回数テストでは、70%1RMの重量で、挙上できなくなるまでの反復を4セット実施した。安全のために、セット間は90秒間の休憩が設けられた。

結果

トータルボリュームに関しては群間に有意差は認められなかった。

セット毎の挙上回数は、ポジティブバイアス群の静的ストレッチング条件の最終セットにおいて、同群のコントロール条件と比較して有意に多い回数を記録した(下図参照)。ネガティブバイアス群については、静的ストレッチング条件とコントロール条件間に有意な差はみられなかった。

反復回数

考察

本研究は私たちの知る限りでは、静的ストレッチングに対する期待感の操作が、その後の筋パフォーマンスに与える影響について調べた初めてのものである。

筋肥大にはトレーニングボリュームが重要であることは広く認識されており、静的ストレッチングへの期待感の違いが挙上回数へ与える影響について調べることは実践的かつ重要だと考えられる。

本研究では、ポジティブバイアス群の静的ストレッチング条件の最終セットにおいて、コントロール条件と比較して、より多くの挙上回数が得られた。トータルボリュームと総挙上回数は23%増加していた(効果量はそれぞれ0.33と0.35)。トータルボリュームと総挙上回数における差は統計学的有意には達していないが、この測定の変動係数よりは大きな値であった。

以上のことから、ポジティブバイアス群に与えられた誤った情報は、静的ストレッチング後のパフォーマンス向上に影響した可能性がある。

つまり、静的ストレッチング後のパフォーマンスの変化を調べた数々の先行研究において、被験者または研究者の期待が実験結果に影響を与えていたことも十分に考えられる。

ネガティブバイアス群に関しては、静的ストレッチング条件とコントロール条件の間に有意な差はみられず、効果量もトータルボリュームが0.15、総挙上回数が0.03と小さなものであった。

本研究結果を総合的に考えると、静的ストレッチングによる筋力低下は、それが本番直前に実施された場合にのみ生じる可能性がある。

今回のように特異的なウォームアップを行うことによって、静的ストレッチングと本番との間に時間的間隔が与えられることで、静的ストレッチングによるパフォーマンス低下は無効化され、効果への期待感の影響は最小限に抑えられるように思われる。

リミテーション

まず、今回使用されたエクササイズは、実際に行われている筋トレのセッションを必ずしも反映しているものではなかった。通常、複数種目や複数のセットが実施される。

また、今回の被験者はいずれも定期的に静的ストレッチングを実施しておらず、スポーツ科学の専門家も含まれていなかったが、静的ストレッチングに対する先入観については評価されておらず、この点については今後の調査でも慎重に検討する必要がある。

結論

静的ストレッチングに関して、事前に与えられた情報がポジティブであろうと、ネガティブであろうと、トレーニングのトータルボリュームには影響を与えなかったが、ポジティブな情報を与えられた場合は最終セットにおいて反復回数の増加を促すことが示唆された。

個人的感想

信じれば良い効果が得られる可能性

良い効果が得られると信じていれば、一部のシチュエーションにおいては、実際にプラスの影響があることが示唆されました。

ただし、静的ストレッチングは直後のパフォーマンスに悪影響を与えるということが広く知られている現状においては、ポジティブな影響があることを信じるということは難しいようにも思えます。

自己暗示などで信じるということも考えましたが、それができるのであれば、「いつもは6レップしか挙がらないところ、今日は8レップ挙げられる」と暗示をかけた方が、よっぽど直接的でしょう。

論文内のリミテーションでも触れられていましたが、研究するにしても、現時点での被験者の認識(先入観)を評価することは必須だと思いますし、それが実験期間中に他からの情報によって変わらないようにすることも必要です。

しかし、これを確実に遂行することは非常に難しいのではないかと感じます。実験期間中、被験者をすべての情報から隔絶された部屋に閉じ込めておかなければならない、というような話になります。そのような懸念点が、このテーマの研究が出てきにくい理由の一つとも思えます。

話が少し逸れましたが、現場レベルの話に戻せば、ポジティブな効果があると信じていれば、終盤のセットで挙上回数が増加するかもしれないという知見は、実際的には活用するシーンはあまりないかもしれないということです。しかし、だからといって、この報告に意味がないというわけでは決してありません。

静的ストレッチング後のパフォーマンス低下がキャンセルされている

個人的に気になったのは、一般的には起こるとされている静的ストレッチング後のパフォーマンス低下がキャンセルされていたことです。ポジティブバイアス、ネガティブバイアスに関わらず、コントロール条件(静的ストレッチングをしない条件)と比較して、パフォーマンスが低下していませんでした。

今回の実験では、大腿四頭筋に対してトータル270秒の静的ストレッチングが施されています。この秒数は、一般的に悪影響が出ると言われている45秒1や60秒2という値を大きく上回っています。

この理由として、まず考えられるのは、静的ストレッチングからパフォーマンス測定までの時間的な間隔です。

5分間あいている

先行研究では、静的ストレッチングの実施10分後の時点でパフォーマンスの低下が消失していたとの報告もあります3

今回の間隔は5分でしたが、条件次第(伸張時間や部位、その後の動的ウォームアップの有無)では5分で消失する可能性も十分考えられます。

さらに、今回は本テストの前に、特異的なウォームアップを行っています。

特異的ウォームアップ

これは現場でいえば、メインセットの前に行う軽めの重量でのウォームアップセットに相当するものと考えることもできます。

先行研究では、静的ストレッチング後に動的なウォームアップを取り入れると、静的ストレッチングによるパフォーマンス低下がキャンセルされるとの報告があります2-7

以上のことから、今回の実験の流れは現場での形式に近いものと考えられます。そのような条件下では、静的ストレッチングによる筋パフォーマンス低下(今回の場合は挙上回数)は、現場レベルでは気にするほどではないと捉えることもできる結果となりました

静的ストレッチングが、その後のパフォーマンスに与える影響については関心が大きいテーマでもありますので、引き続き考えを整理していきたいと思います。

参考文献

  1. Simic, L, Sarabon, N, and Markovic, G. Does pre-exercise static stretching inhibit maximal muscular performance? A meta-analytical review. Scand J Med Sci Sports 23: 131–148, 2013.
  2. Kay, AD and Blazevich, AJ. Effect of acute static stretch on maximal muscle performance: a systematic review. Med Sci Sports Exerc 44: 154–64, 2012.
  3. Mizuno T, et al., Stretching-induced deficit of maximal isometric torque is restored within 10 minutes. The Journal of Strength & Conditioning Research, 2014. 28(1): 147-153.
  4. Taylor, K-L, Sheppard, JM, Lee, H, and Plummer, N. Negative effect of static stretching restored when combined with a sport specific warm-up component. J Sci Med Sport 12: 657–61, 2009.
  5. Gelen, E. Acute Effects of Different Warm-Up Methods on Sprint, Slalom Dribbling, and Penalty Kick Performance in Soccer Players. J Strength Cond Res 24: 950–956, 2010.
  6. Loughran, M, Glasgow, P, Bleakley, C, and McVeigh, J. The effects of a combined static-dynamic stretching protocol on athletic performance in elite Gaelic footballers: A randomised controlled crossover trial. Phys Ther Sport 25: 47–54, 2017.
  7. Reid, JC, Greene, R, Young, JD, Hodgson, DD, Blazevich, AJ, and Behm, DG. The effects of different durations of static stretching within a comprehensive warm-up on voluntary and evoked contractile properties. Eur J Appl Physiol 118: 1427–1445, 2018.