【論文紹介】静的ストレッチングが動的バランスに与える影響

THE ACUTE EFFECTS OF DIFFERENT DURATIONS OF STATIC TRETCHING ON DYNAMIC BALANCE PERFORMANCE

Costa PB, Graves BS, Whitehurst M, Jacobs PL.
J Strength Cond Res. 2009 Jan;23(1):141-7.

目的:異なる実施時間の静的ストレッチングは動的バランスにどのような影響を与えるか?

先行研究により、45秒間の静的ストレッチングの実施は、その後のバランス能力を低下させることが報告されている1。バランス能力の低下は傷害のリスクにも関連しているとされているため2,3、この問題は看過することはできない。しかし、これまでのストレッチングがバランス能力に与える影響についての研究は男性を被験者にしたものに限られている。

また、静的ストレッチングの異なる伸張時間がバランス能力に及ぼす影響については検討されていない。 したがって、本研究の目的は、静的ストレッチングの2つの異なる伸張時間が、活動的な健康な女性の動的バランス能力に与える急性効果を調べ、比較することであった。 先行研究に基づくと、長い伸張時間のプロトコルはバランス能力を低下させると予想した。

方法

レクリエーションレベルの活動的な健康な女性28名(年齢24.7±4.5歳、体重60.6±7.9kg、身長160.7±7.4cm)
ランダム化クロスオーバーデザインを採用し、以下の3つのグループが設定された。

  1. コントロール群
  2. 15秒静的ストレッチング群
  3. 45秒静的ストレッチング群


静的ストレッチング
受動的な膝屈曲、仰臥位での股関節屈曲、膝伸展位での足関節背屈、膝屈曲位での足関節背屈のストレッチングを行った。15秒 or 45秒を左右各3回ずつ実施した。

動的バランス
動的バランスはBiodex Stability System(BSS)を用いて評価した。

BSSは従来のフォースプレートを使った重心動揺を測定するものではなく、プラットフォーム自体が動くようになっており、その時の角度を抽出し、その角度から動的バランスを評価するものである。
測定で得られたoverall stability index (OSI)の数値が高いほど、水平方向のばらつきが大きいことを示す。つまり、スコアが高いほどバランスの不安定性が大きく、スコアが低いほど安定性が高いことを意味する。

BSSの設定はレベル3で、1回の試行は20秒とし、3回実施した。

結果

コントロール群と45秒群のバランス能力は統計学的有意な変化を示さなかった。一方で、15秒群のバランス能力は18%向上していた(p=0.004)。

静的ストレッチングが動的バランスに与える影響  静的ストレッチングによる動的バランスの変化率

考察:短時間の静的ストレッチングは,動的バランスを改善し得る

静的ストレッチングの後に、パフォーマンスが低下することは複数の研究により報告されているが、バランス能力への影響について調査した研究は一件しか存在しない1。本研究は異なる伸張時間がバランス能力に与える影響を調べた初めての研究である。また、この件に関しては女性を対象にした研究としても初である。

本研究結果は、15秒程度の伸張時間であれば、動的バランスを改善し得ることを示している。また、コントロール群と45秒群は統計学的有意に動的バランスを変化させなかった。これは、比較的長めの静的ストレッチングが動的バランスを損なわないことを示唆している。

リミテーション

本研究は、レクリエーションレベルの活動的な若い女性のみを対象としたため、アスリートや男性、高齢者、子どもに対する影響は明らかではない。また、本研究は即時的な効果の検証であるので、長期的な影響についても介入研究の結果を待たなくてはならない。

現場への応用

ストレッチングに関連する潜在的な利益は、それに費やされる時間と比較して客観的に判断されるべきである。つまり、ルーティーンに静的ストレッチングを組み込むことによる費用対効果を検討する必要がある。

対象者がレクリエーションレベルの活動的な若い女性の場合、静的ストレッチングによる動的バランス能力の低下を懸念して、静的ストレッチングを運動前のウォームアップから取り除く必要はない。比較的短時間の静的ストレッチングであれば、動的バランスを改善し得るということは、より重要である。

参考文献

  1. Behm, DG, Bambury, A, Cahill, F, and Power, K. Effect of acute static stretching on force, balance, reaction time, and movement time. Med Sci Sports Exerc 36: 1397–1402, 2004.
  2. McGuine, TA, Greene, JJ, Best, T, and Leverson, G. Balance as a predictor of ankle injuries in high school basketball players. Clin J Sport Med 10: 239–244, 2000.
  3. Trojian, TH and McKeag, DB. Single leg balance test to identify risk of ankle sprains. Br J Sports Med 40: 610–613, 2006.