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STATIC STRETCHING DOES NOT REDUCE VARIABILITY, JUMP AND SPEED PERFORMANCE
Fábio Carlos Lucas de Oliveira and Luís Manuel Pinto Lopes Rama
Int J Sports Phys Ther. 2016 Apr; 11(2): 237–246.
目的:スタティックストレッチングの実施後,発揮パフォーマンスのばらつきはどう変化するか?
スタティックストレッチングはパフォーマンスに対してネガティブな影響を与える可能性があるため、ウォームアップからスタティックストレッチングを取り除くべきであると言われることがあるが、運動前のスタティックストレッチングの影響については不明確な部分も残されているため、そのような判断は時期尚早であると考えられる。
スタティックストレッチングがパフォーマンスに与える影響について、統一した見解は得られていない。これは先行研究における、ストレッチングのボリューム・強度、あるいはテストの試技の回数や休憩時間等の違いによって、各研究結果に相違が生じていると考えられ、そのことが研究間の比較を困難にしている。
アスリートのパフォーマンスを判定する上で、テストを複数回実施したときの試技間のばらつきの分析が用いられることもあるが、スタティックストレッチングがその直後の発揮パフォーマンスのばらつきに与える影響を調査した研究は見たらない。
そこで、本研究はスタティックストレッチングがカウンタームーブメントジャンプと20mスプリントのパフォーマンスに与える影響と、それらの試技間のばらつきを調査することを目的とした。
先行研究に基づけば以下の仮説が立てられる。
1)スタティックストレッチングの実施によりカウンタームーブメントジャンプとスプリントのパフォーマンスは低下する。
2)さらに、それらのテストの3回の試技間のばらつきは大きくなる。
方法
被験者
男性22名(年齢23.2±5.0歳,体重82.8±12.6kg,身長1.78±0.06m,BMI26.1±2.8)
アマチュアアスリート(種目はバラバラ)
実験手順は下図のとおり。
カウンタームーブメントジャンプと20mスプリントは3回測定した。
*CMJ(1回目)→2分休憩→20mスプリント(1回目)→5分休憩→CMJ(2回目)→2分休憩→20mスプリント(2回目)→…繰り返し
スタティックストレッチング
ターゲットは下腿三頭筋,大腿四頭筋,ハムストリングス,大殿筋,腰方形筋の5種。
片側30秒ずつ実施。
結果
カウンタームーブメントジャンプとスプリントパフォーマンスのいずれの測定項目においても、ストレッチング群とコントロール群の間で、有意な差は認められなかった。
カウンタームーブメントジャンプとスプリントパフォーマンスのいずれの測定項目においても、ストレッチング群とコントロール群の間で、各測定3回実施したときの結果のばらつきに有意な差は認められなかった。
考察:パフォーマンスは低下せず,試技毎のばらつきも増大しなかった
本研究は、スタティックストレッチングはカウンタームーブメントジャンプとスプリントパフォーマンスを低下させるだろうという事前の仮説とは異なる結果を示した。また、テストの試技毎のばらつきも変化しなかった。
スタティックストレッチングによるネガティブな影響が確認されなかったのは、本研究で行ったストレッチングの伸張時間やボリューム、強度が関係していると考えられる。先行研究において、スタティックストレッチングの伸張時間が30秒未満であれば、パフォーマンスに対するネガティブな影響は生じにくいと報告されている。本研究は1部位につき30秒の実施であったため、この先行研究と同様に、ネガティブな影響が生じなかった可能性がある。
スタティックストレッチングがパフォーマンスに与える影響は多数の先行研究が存在するが、本研究は新奇性として、パフォーマンス計測の試技間のばらつきへの影響も調査した。当初の予想では、スタティックストレッチングのパフォーマンスに対するネガティブな影響は、発揮パフォーマンスの一貫性を損なう、つまりばらつきが増大すると考えた。しかし、本研究において試技毎のばらつきは変化しなかった。
個人的感想
運動前のスタティックストレッチングはパフォーマンスを低下させるという報告が多い中、タイトルに「DOES NOT REDUCE」と明記してあるのはインパクトがありました。
1部位あたりの伸張時間が短ければ(<30秒)、パフォーマンスの低下は生じない、ということはレビューなどでも報告されている内容ですが、ばらつきに対する影響は初めてで興味深く読みました。
今回の研究では、パフォーマンスの低下が生じなかったという結果ですが、これはべつにポジティブな報告ではなくて、あくまでもネガティブではないというだけの報告なので、ウォームアップでスタティックストレッチングをすることが有益であることの根拠にはならないので注意が必要です。