ストレッチにダイエット効果があるというウソ|科学的根拠が示す真実

ストレッチ

「楽して痩せる」というのは絶えることのないニーズです。お金もスペースも使わずに誰でもできて、筋トレのようにしんどくないストレッチは、そのニーズに訴えるには絶好の代物なのでしょう。インターネットで検索をすると「ストレッチのダイエット効果」「ストレッチで痩せる」という内容が書かれた記事が驚くほどたくさん表示されます。

しかし、結論から言えば、ストレッチをするだけで痩せることは難しいと考えられます。他の記事で謳われているストレッチのダイエット効果について、科学的根拠をベースに検討していきます。

それらの記事では、「痩せる」の定義が明らかではないので、ここでは「痩せる=体脂肪量が減少する」と定義して、話を進めます。

ストレッチをすることで基礎代謝が上がり、痩せやすくなる?

ストレッチで痩せる

ストレッチのダイエット効果を謳うページには「体温が上がることで、基礎代謝がよくなる」と書かれてありましたが、「ストレッチが基礎代謝を上げる」ということを直接的に示す研究は、私が調べた限りでは見つかりません。先行研究においては10 分間のストレッチの結果、深部体温は0.10℃上昇したものの、このことによる「エネルギー代謝亢進はあまり大きくないと思われる」とあります1

つまり、たしかにストレッチによって深部体温が上昇する可能性はありますが、それが実際に「基礎代謝が上がり、痩せやすくなる」というところまで繋がるとは考えられません

身体の柔らかさとカロリー消費には関連があるかもしれない

ストレッチが基礎代謝を上げるということは明らかではありませんが、柔軟性とエネルギー消費量にはいくらかの関係性がありそうだということを示す論文はあります。

それは、柔軟性の高いランナーほど、エネルギー消費量が多いという報告です2。つまり、身体が柔らかい人はランニング中の燃費が悪い(=より多くのカロリーを消費する)ということです。ダイエットの場合は同じ距離を走ったとしても、なるべく多くのエネルギーを使用する方が良いわけですから、燃費が悪いというのはダイエットを進める上では効率的で良い事ということになります。

これは反対に言えば、ランニングのパフォーマンスを高いレベルで維持したい人にとっては、過度な柔軟性はマイナスの影響があるということを示しています。

そして、ここで忘れてはいけないのは、ストレッチによって柔軟性を高めることは、あくまでも燃費が悪い身体を作るためのプロセスであって、最終的には運動を行わなければ、その恩恵を受けることはできないということです。

 

要点
  1. ストレッチで基礎代謝は上がらない
  2. 柔軟性を高めることで、運動時の消費エネルギーが増加する可能性はある

ストレッチでインナーマッスルを鍛える?

ストレッチで鍛える?

「ストレッチを行うことで、ダイエットしたい部分を集中的に鍛えたり、インナーマッスルを鍛えたりできる」という記述もあります。これは全く根拠がありません。おそらく「重いウェイトを使った筋トレで鍛えられるのはアウターマッスル、運動強度の低いエクササイズを行うとインナーマッスルが鍛えられるだろう」という誤った認識の基に書かれたものだと思います。

あるいは、「ストレッチ=柔軟性が高まる」というところから、「しなやかな体」が連想され、「しなやかな体はインナーマッスルが鍛えられて引き締まってる」というようなイメージで書かれたものでしょう。いずれも完全な誤りです。

要点
  1. ストレッチでインナーマッスルは鍛えられない

ストレッチで脂肪が燃焼する?

ストレッチをすることで「体内の脂肪が燃焼され、筋肉になる」という記述も見られましたが、これも完全なデタラメです。ストレッチをすることで体内の脂肪が燃焼されるということは科学的根拠がありませんし、そもそも脂肪から筋肉へ変換されることはあり得ません

実際に「ストレッチで痩せた」との主張も見受けられましたが、ストレッチを行うと同時に、「適切な食生活への改善と軽い有酸素運動を行った」と書かれてありました。この場合、食生活や運動習慣が変化しているので「ストレッチ“で”痩せた」という根拠にはなり得ません。食生活の改善(=摂取エネルギー量の減少)と有酸素運動の実施(=消費エネルギーの増加)に関しては、体重を減少させることが明らかなわけですから、ストレッチよりも、そちらの2つの貢献度が高かったと考えるのが妥当です。

  • ストレッチで脂肪は燃焼しない

 

ストレッチは“動ける身体作り”には,効果があるかもしれない

運動習慣のない人が静的ストレッチを継続して行ったところ、運動能力を示す複数の指標が改善したという報告があります3

ストレッチが運動能力を向上させることで、ダイエットに貢献するかもしれない

これは「ストレッチをすることで動ける身体になる」という表現を支持できるかもしれません。つまり、現時点で運動習慣の無い人は、まずは入り口としてストレッチを行うことが、動きやすい体作りに繋がり、日常生活がよりアクティブになった結果、消費カロリーが増え、体重減少に貢献する可能性はあります

また、この研究では筋力等のパフォーマンスが向上していますが、筋肉量が増えたということは直接的に明らかにはなっていません。おそらく、このパフォーマンスの向上は、運動習慣のない人がストレッチをすることで、「体を動かすことに慣れた」ことが要因だと考えられ、ストレッチによって筋肉が増えた(=筋肥大が生じた)ということではないと推察されます。

繰り返しになりますが、これもストレッチをしているだけではダメということです。ストレッチをした結果、日頃の身体活動量が増えるというところに繋がるかどうかがポイントです。

  • 運動習慣の無い人は、ストレッチをすることで運動能力向上が期待できる=エネルギー消費の増大に貢献する可能性はある

寝る前のストレッチで痩せる?

寝る前のストレッチで痩せる?

睡眠とストレッチに関して書かれてあることは「睡眠不足は肥満に繋がるため、寝る前にストレッチをして睡眠の質を高めると、痩せやすくなります」という主張です。

リラクセーション効果や睡眠の質を改善できる可能性はある

まず、睡眠不足が肥満に繋がるということは確かに研究報告があります4,5。次にストレッチが睡眠にどのような影響を与えるかですが、ストレッチが副交感神経を亢進し、リラクセーション効果をもたらすという報告に加えて6,7、定期的なストレッチの実施がスムーズな入眠を促すという報告があります8。以上のことから、ストレッチによって心身のリラクセーションを促し、スムーズな入眠を実現することは、睡眠時間や質の確保につながることが予想されます。

また、ストレッチを行うことでストレスを軽減させることができるとも言われています9。このような睡眠の質改善やストレス軽減が、間接的に、かつ長期的な視点でみたときに体重減少に貢献する可能性はあります。

  • 寝る前のストレッチがダイエットに間接的に貢献する可能性は否定できないが、あくまでも睡眠の質・時間の確保が大事

 

まとめ:ダイエットにおいて,ストレッチは補助的な位置づけ

否定的な意見が多くなりましたが、私は決してストレッチのネガティブキャンペーンを行いたいわけではありません。むしろ、ストレッチを広めたいと思っています。しかし、あまりにも素人的な考えで「ダイエットにはストレッチが効果的!」とか「ストレッチで部分痩せ!」といったウソを書いたページが多く、辟易してしまいました。

誤った情報を信じてしまい、「ストレッチをしているのに全然痩せない!」という不利益を被る人が、一人でも少なくなればと思い、この記事を書きました。効果が無いものには「効果がない」と正直に言うべきだと思っています。

健康面でのメリットはある

ストレッチに直接的なダイエット効果はありませんが、健康面でのメリット(血管年齢の若返り10、更年期症状や抑うつ度の軽減11、気分の改善12)はありますですから、ストレッチをすること自体が無駄というわけではありません。私が言いたかった事として強調しておきたいのは、あくまでも痩せるための手段としてストレッチをするのは科学的根拠がない・効率的ではないということです。

すでに習慣的にストレッチを行っている方は、ぜひそのまま継続していただきたいですし、運動不足が気になりだした方は、「まずはストレッチから始めてみる」というのは良いアプローチだと思います。

要 点

  • ストレッチだけで痩せる(=体脂肪量を減らす)ことは難しい
  • ストレッチは日々の活動量を増やす上での、補助的な役割としては有益である可能性もある
  • ダイエットには直接的に関係はしないが、ストレッチには精神的・身体的な健康を保持する効果が期待できる
  • ストレッチだけでダイエットできるなら、みんな苦労していないはず
【論文紹介】体幹の柔軟性と動脈スティフネスの関係

参考文献

  1. 永松俊哉, 北畠義典 & 泉水宏臣. 低強度・短時間のストレッチ運動が深部体温,ストレス反応,および気分に及ぼす影響. 体力研究 110, 1–7 (2012).
  2. Jones, A. M. Running Economy is Negatively Related to Sit-and-Reach Test Performance in International-Standard Distance Runners. Int. J. Sports Med. 23, 40–43 (2002).
  3. Kokkonen, J., Nelson, A. G., Eldredge, C. & Winchester, J. B. Chronic static stretching improves exercise performance. Med. Sci. Sports Exerc. 39, 1825–31 (2007).
  4. McEown, K. et al. Chemogenetic inhibition of the medial prefrontal cortex reverses the effects of REM sleep loss on sucrose consumption. Elife 5, 161–167 (2016).
  5. St-Onge, M.-P. et al. Short sleep duration increases energy intakes but does not change energy expenditure in normal-weight individuals. Am. J. Clin. Nutr. 94, 410–416 (2011).
  6. Mueck-Weymann, M., Janshoff, G. & Mueck, H. Stretching increases heart rate variability in healthy athletes complaining about limited muscular flexibility. Clin. Auton. Res. 14, 15–18 (2004).
  7. Farinatti, P. T., Brandão, C., Soares, P. P. & Duarte, A. F. Acute Effects of Stretching Exercise on the Heart Rate Variability in Subjects With Low Flexibility Levels. J. Strength Cond. Res. 25, 1579–1585 (2011).
  8. Tworoger, S. S. et al. Effects of a yearlong moderate-intensity exercise and a stretching intervention on sleep quality in postmenopausal women. Sleep 26, 830–6 (2003).
  9. Corey, S. M. et al. Effect of restorative yoga vs. stretching on diurnal cortisol dynamics and psychosocial outcomes in individuals with the metabolic syndrome: the PRYSMS randomized controlled trial. Psychoneuroendocrinology 49, 260–71 (2014).
  10. Nishiwaki, M., Yonemura, H., Kurobe, K. & Matsumoto, N. Four weeks of regular static stretching reduces arterial stiffness in middle-aged men. Springerplus 4, 555 (2015).
  11. Kai, Y., Nagamatsu, T., Kitabatake, Y. & Sensui, H. Effects of stretching on menopausal and depressive symptoms in middle-aged women: a randomized controlled trial. Menopause 23, 827–32 (2016).
  12. Sudo, M., Ando, S. & Nagamatsu, T. Effects of acute static stretching on visual search performance and mood state. J. Phys. Educ. Sport 15, 651–656 (2015).