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【論文紹介】静的・PNFストレッチ・特異的ウォームアップが,その後の筋トレの反復回数に与える影響

静的・PNFストレッチ・特異的ウォームアップが筋力に与える影響

Acute Effects of Different Methods of Stretching and Specific Warm-ups on Muscle Architecture and Strength Performance

Sá, Marcos A.; Matta, Thiago T.; Carneiro, Simone P.; Araujo, Carolina O.; Novaes, Jefferson S.; Oliveira, Liliam F.
J Strength Cond Res. 2016 Aug;30(8):2324-9. doi: 10.1519/JSC.0000000000001317.

背景

運動前には怪我の予防やパフォーマンスの向上を目的として、ウォームアップが行われる。一般的にウォームアップには、筋温や神経筋機能の増加のためにランニングなどの低強度運動が行われる。

特異的ウォームアップは、メインの動作と同様のエクササイズを軽めの負荷で行うものである。先行研究において、特異的ウォームアップを行うことで、バリスティックストレッチや静的ストレッチを行うよりも、その後の筋トレにおける最大反復回数の増加効果が得られたことが報告されている(1)

運動前のストレッチの実施が、様々なパフォーマンスにネガティブな影響を与えることは多く報告されているが、伸張時間や強度など、まだ議論の余地は残されている。

そのため、本研究は2つのストレッチ(PNFと静的ストレッチ)と特異的ウォームアップが、その後の筋トレ(反復回数)に与える影響を調査することを目的とした。

方法

被験者

9名の男性(24.81±2.98歳、体重81.33±11.46kg、身長1.77±0.07m、BMI25.81±3.20)。
被験者はレクリエーションレベルの身体活動をしていたが、過去6ヵ月以内に筋トレはしていないため、本研究では非鍛錬者と位置付ける。

被験者はランダムの順で以下の4パターンの実験に参加した。
2つのストレッチ条件の伸張方法は写真を参照。

  • PNFストレッチ:最大伸張位で6秒のアイソメトリック収縮後脱力し、24秒間伸張。
  • 受動的静的ストレッチ:大腿四頭筋・ハムストリングス 30秒×3セット。
  • 特異的ウォームアップ:各種目30%8RMの負荷で20レップを30秒かけて実施。種目間のレストは30秒。
  • コントロール(安静)条件

静的ストレッチとPNFストレッチ

終了後すぐに4種類のエクササイズ(レッグエクステンション・レッグカール・レッグプレス・ハックマシンスクワット)を実施した。各種目3セット実施し、被験者は各セットにおいてコンセントリック局面での動作が完了できなくなるまで、可能な限り反復を繰り返した。セット間のレストは90秒とした。

結果

全てのエクササイズにおいてPNFストレッチは特異的ウォームアップ・静的ストレッチと比較して反復回数が少なかった。
レッグカールの反復回数に関しては、PNFストレッチはコントロール群よりも低値であった(p=0.006)。
レッグプレスにおいては、静的ストレッチと特異的ウォームアップ条件はコントロール群よりも高値であった(p = 0.005 and p = 0.001, respectively)。
ハックスクワットに関しては、静的ストレッチは他の3条件と比較して高値であった(p = 0.002 for PNF, p = 0.008 for CSs, and p < 0.001 for SW)。特異的ウォームアップはPNF(p < 0.001)とコントロール(p < 0.001)よりも高値であった。

静的ストレッチ、PNF、特異的ウォームアップの結果

考察

本研究の目的はPNFストレッチ・静的ストレッチ・特異的ウォームアップの実施が、その後の筋トレに与える影響を検証することであった。

主な結果として、PNFストレッチはコントロール群を含むその他の介入と比較して、全体的にパフォーマンスを低下させた。また、静的ストレッチと特異的ウォームアップは多関節種目の反復回数を増加させた。

PNFストレッチが反復回数を減少させたという結果は、先行研究においても報告されている(2)。この結果は、ゴルジ腱器官の主働筋抑制による神経活性の低下に起因すると考えられている。

一方で、静的ストレッチと特異的ウォームアップにおいては全ての種目において向上が観察された。

特異的ウォームアップが反復回数を増加させたのは?

特異的ウォームアップが筋パフォーマンスを向上させたことに関しては、我々の先行研究(1)を支持する結果となった。我々が知る限りでは、筋トレに対する特異的ウォームアップの効果を検証した報告は他には無い。

本研究においては、体温の測定は行っていないが、他の研究によれば筋力評価の前には5-10分のウォームアップが推奨されている(3)。今回の実験では、特異的ウォームアップは4種目のそれぞれで30%8RMの重量で30秒かけて20レップ行ったが、この内容は上記の推奨内容にほぼ沿っていると考える。

パフォーマンスが向上したことについて考えられる仮説としては、筋温の上昇により、筋の粘性抵抗が減少し、筋パフォーマンスに良好な影響を与えた可能性や、血管拡張による活動筋への酸素供給の増大などが考えられる。

静的ストレッチが反復回数を増加させたのは?

静的ストレッチ後にすべての種目でパフォーマンスが改善したことについては、不明瞭な点が多い。一般的に、ストレッチの直後は筋力が低下することが知られているからだ。今回の我々の結果は、多くの先行研究に相反するものである。この先行研究との相違は、ストレッチのボリュームに起因すると考えられる。ストレッチ後の筋力低下を報告している研究は、ストレッチの実施時間が長い傾向にあるが、本研究では大腿四頭筋とハムストリングスにそれぞれ1種目ずつの実施であり、トータルの伸張時間は3分であった。そのため、筋力の低下は起こらず、上記の特異的ウォームアップのときと同様の効果が得られたものと考えられる。

結論として、特異的ウォームアップと受動的な静的ストレッチは、筋トレ前に行うウォームアップとして同程度勧められるが、PNFストレッチは避けるべきである。

現場への応用

ストレッチはフィットネスクラブ等で、ウォームアップルーティンの一部として一般的に処方されている。本研究結果は特異的ウォームアップと静的ストレッチは、下半身のトレーニングセッションにおいて、トータル反復回数を増加させるための最適な方法であることを示唆している。一方で、筋トレ前のPNFストレッチは避けるべきであると示された

個人的感想

結果への疑問は拭えない

静的ストレッチ後にパフォーマンスが向上したことを報告する数少ない文献です。多くの先行研究では、静的ストレッチを行うことでパフォーマンスが低下すると報告されており、その結果との相違について考察部分では、「本研究はトータルの伸張時間が短いから、筋力の低下が起こらなかったんだ」と主張されていますが、本研究で実施された一部位につき30秒×3セット=90秒の伸張というボリュームは、先行研究に基づけば十分にネガティブな影響が生じる量だと言えます(4-6)。また、トータル3分間の静的ストレッチによって、筋温の上昇が生じたかも疑問が残ります(参考文献も付されていない)。

特異的ウォームアップの方が妥当か

今回の研究では、特異的ウォームアップと静的ストレッチは同程度推奨されるとのことですが、静的ストレッチに関しては先行研究において負の報告が多数存在するので、個人的には特異的ウォームアップを優先的に選択するのが妥当かと思います。

加えて、特異的ウォームアップの利点としては、フィットネスクラブでの指導を想定した場合、特異的ウォームアップはメインセットを行うエリアと同じところで実施することができるので、無駄な移動が省けるという点が挙げられます。

これが逆にデメリットとなるパターンとしては、一つのトレーニング器具の使用時間に制限がある場合は、特異的ウォームアップの実施に時間を使ってしまうと、その後のメインセットを行える時間が削られてしまうことです。また、ウェイトトレーニングに不慣れなクライアントの場合、(たとえ軽い負荷であっても)重量を持つ時間が長くなることは心理的な負担の増加につながる可能性もあります。

いずれにしても、この論文一本で「静的ストレッチはウォームアップとして推奨できる」と主張するのは難しいと思うので、慎重に解釈したいものです。

参考文献

  1. Sa, MA, Neto, GR, Costa, PB, Gomes, TM, Bentes, CM, Brown, AF, and Novaes, JS. Acute effects of different stretching techniques on the number of repetitions in a single lower body resistance training session. J Hum Kinet 45: 177–185, 2015.
  2. Gomes, TM, Simao, R, Marques, MC, Costa, PB, and da Silva Novaes, J. Acute effects of two different stretching methods on local muscular endurance performance. J Strength Cond Res 25: 745–752, 2011.
  3. McGowan, CJ, Pyne, DB, Thompson, KG, and Rattray, B. Warm-up strategies for sport and exercise: Mechanisms and applications. Sports Med 45: 1523–1546, 2015.
  4. Behm, D. G. & Chaouachi, A. A review of the acute effects of static and dynamic stretching on performance. Eur. J. Appl. Physiol. 111, 2633–2651 (2011).
  5. Kay, A. D. & Blazevich, A. J. Effect of acute static stretch on maximal muscle performance: a systematic review. Med. Sci. Sports Exerc. 44, 154–64 (2012).
  6. Simic, L., Sarabon, N. & Markovic, G. Does pre-exercise static stretching inhibit maximal muscular performance? A meta-analytical review. Scand. J. Med. Sci. Sports 23, 131–148 (2013).