ウォームアップで、ストレッチングやマッサージ(あるいはそれらに準ずるコンディショニングアプローチ)を行っている方も多いかと思います。
今回の研究は、静的ストレッチングを単独で行うよりも、マッサージ→静的ストレッチングの順で行った方が良いのではないかという報告です。
Self-massage prior to stretching improves flexibility in young and middle-aged adults
Robyn A. Capobianco, Melissa M. Mazzo & Roger M. Enoka
J Sports Sci. 2019 Feb 4:1-8. doi: 10.1080/02640414.2019.1576253. [Epub ahead of print]
目的
本研究の目的は、静的ストレッチングを単独で実施する場合と、セルフマッサージを行ってから静的ストレッチングを実施する場合とで、関節可動域や筋力に与える影響が異なるかを比較することであった。
方法
被験者
若年層15名(男性6名、女性9名、25 ± 3歳)
中高年層15名(男性6名、女性9名、45 ± 5歳)
実験手順
実験手順は以下のとおり。
柔軟性の指標は、足関節背屈可動域をデジタルゴニオメーターを用いて測定。
筋力の指標は、足関節底屈の等尺性の随意最大収縮(MVC)を評価。
セルフマッサージには、Yoga Tune Upというマッサージセラピーボールを使用。ふくらはぎをボールに乗せ、転がしてふくらはぎ全体をマッサージした。セルフマッサージの強度はNumerical Rating Scale(NRS)で最大5までの圧刺激を加えるように指示された。
結果
関節可動域
対象者の年齢層に関わらず、静的ストレッチングのみ条件よりも、セルフマッサージ+ 静的ストレッチング条件の方が、関節可動域の増加が大きかった。
筋力
対象者の年齢層に関わらず、静的ストレッチングのみ条件では足関節底屈トルクが減少していたが、セルフマッサージ+ 静的ストレッチング条件では増加していた。
個人的感想
本研究では、ひと手間かけた分、より大きな効果が得られるという結果になりました。マッサージをしてからの方が伸ばしやすいというのは、個人的な体感としても納得できます。
興味深いのは、先にマッサージを行うことで、静的ストレッチング直後の筋力の低下がキャンセルされているという点です。理由としては、局所的な組織間の流動性の変化や、反射反応の低下、ストレッチトレランスの変化、血流量の増加などが挙げられていますが、明らかではありません。
また、ディスカッション内では、セルフマッサージが関節可動域の増加や筋力向上をもたらした理由のひとつとして、皮膚、筋、fasciaに存在する機械受容器への刺激が関係しているのではないかと論じられていますが、この考えに基づけば、本研究で用いられたマッサージボールを使ったセルフマッサージに限らず、IASTMやフロスバンド等でも同様の効果が期待できるかもしれません。
コンプレフロス(フロスバンド)の効果と使い方|おすすめ診断あり柔軟性の改善に関しては、中高年層において柔軟性が低い被験者ほど大きな改善が得られたと報告されています。対象者が中高年層で、柔軟性の向上が目的の場合は、静的ストレッチングだけではなくマッサージも取り入れることを検討してみても良いかもしれません。
ただし、今回は単発での実施の変化をみた研究ですので、長期で継続した場合にどのような差が生まれるのか(もしくは差が生まれないのか)は分かりませんので、その点は注意が必要です。
主観的な話をすれば、セルフマッサージ後にストレッチングをした方が気持ちよく伸びる感覚が得られるという方もいると思います。ストレッチングをリラクゼーション目的で取り入れているのであれば、その感覚は大切ですし、尊重されるべきだと思います。
なお、競技前にマッサージをしてもパフォーマンスを向上させるわけではないという報告もあります。今回の研究とは「パフォーマンス」の指標が違いますので、そのあたりが関係しているのだろうと思います。
【論文紹介】競技前のマッサージがスプリントパフォーマンスに与える影響 【論文紹介】トレーニング直前のマッサージは推奨されるか?-システマティックレビューまとめ
柔軟性の改善を目的に静的ストレッチングを行う場合は、先にマッサージをしてから静的ストレッチングに移った方が有益である可能性が示されました。
また、加齢により柔軟性が低下傾向にある中高年ほど、その効果が大きいと考えられます。