【論文紹介】異なるウォームアップ方法が,サッカー選手のペナルティーキック,ドリブル,スプリントのパフォーマンスに与える影響

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Acute effects of different warm-up methods on sprint, slalom dribbling, and penalty kick performance in soccer players.

Gelen E
J Strength Cond Res. 2010 Apr;24(4):950-6. doi: 10.1519/JSC.0b013e3181cb703f.

目的:サッカー選手にとって,最適なウォームアップ方法の調査

これまでの研究で、スタティックストレッチングがパフォーマンスの低下をもたらし、ダイナミックエクササイズがパフォーマンスの即時的な向上に有益であることは示されているものの、それらのウォームアップ方法がサッカー選手のスプリント、ドリブル、ペナルティーキックのパフォーマンスに与える影響は調査されていない。
そこで、本研究はスタティックストレッチング、ダイナミックエクササイズ、そしてそれら2つの組み合わせのウォームアップ方法のそれぞれが、プロサッカー選手のスプリント、ドリブル、ペナルティーキックパフォーマンスに与える影響を検討することを目的とした。

方法

被験者
26名のプロサッカー選手(トルコの3部リーグ所属)
年齢23.3±3.2歳、身長178.2±6.1cm、体重73.0±6.5kg、トレーニング歴9.6±2.1年

実験方法
実験の手順は以下の図のとおり。

Method B:スタティックストレッチング
10分間のスタティックストレッチング(下腿後面・大腿四頭筋・内転筋群・ハムストリング・殿筋群:各部位20秒×2セット)

Method C:ダイナミックエクササイズ
12種のダイナミックエクササイズ(Light skip, High knee pull, Light butt kicks, Light high knees, Walking lunge, Straight leg kick, High glute pull, A-skip, B-skip, Rapid high knees, Carioca, Power skip)
15m×2セット

Method D:スタティックストレッチング + ダイナミックエクササイズ
Method Bの内容 → Method Cの内容 の順で実施。

結果:ダイナミックエクササイズ > スタティックストレッチング

考察:ダイナミックエクササイズはスタティックストレッチングのネガティブな影響を打ち消す

ウォームアップにスタティックストレッチングを組み込んだときは、各テスト結果は悪化したが、ダイナミックエクササイズを組み込んだときは、パフォーマンスが向上した。
また、スタティックストレッチングとダイナミックエクササイズを組み合わせた場合は、各テスト結果に統計学的な変化がなかった。このことから、ダイナミックエクササイズはスタティックストレッチングのネガティブな影響を打ち消したものと考えられる。(しかし、このスタティックストレッチングとダイナミックエクササイズの組み合わせの影響については、ダイナミックエクササイズはスタティックストレッチングのネガティブな影響を打ち消しえない、という相反する報告も存在する(1)。)
なお、今回の結果は、サッカー選手はフィットネスプログラムからスタティックストレッチングを取り除くべきということを意味するものではない。ただ、サッカー選手の指導者は、試合前のスタティックストレッチングがパフォーマンスに与えるネガティブな影響について、理解しておくことが大切である。

結論

良いパフォーマンスを発揮するためには、試合前にスタティックストレッチングを行うのではなく、ダイナミックエクササイズを行うことが推奨される。

個人的感想

結果のデータが、嫉妬してしまう程シナリオ通りの綺麗な出方です。非常に分かりやすいです。
ちなみに、こちらの研究はdynamic exercisesという表現を使っており、dynamic stretchingではありません。
スタティックストレッチングのパフォーマンスに対するネガティブな影響は、多くの研究により報告されていますが、この論文にも書いてあるように、だからといってスタティックストレッチングを完全に廃止したほうが良いということにはなりません。結局はシチュエーションに合わせて、プログラムの内容を考えていきましょうというところに落ち着きます。

 

参考文献

1.Fletcher, IM and Annes, R. The effects of combined static and dynamic stretch protocols on fifty-meter sprint performance in track-and-field athletes. J Strength Cond Res 21: 784–787, 2007.