【論文紹介】フォームローラーを使った筋膜リリースは血管を若返らせるか?

フォームローラーによる筋膜リリースは血管年齢を若返らせるか?

Acute effects of self-myofascial release using a foam roller on arterial function.

Okamoto T, Masuhara M, Ikuta K.
J Strength Cond Res. 2014 Jan;28(1):69-73.

本記事では、self-myofascial release(SMR)を、分かりやすいように一般的に広く認知されている「筋膜リリース」と表現していますが、実際のところ“筋膜”を物理的に“リリース”しているという確証は無いと言われています。

目的:筋膜リリースは血管内皮機能にどのような急性効果をもたらすか?

先行研究において、柔軟性と血管の硬さには相関があることが示されている。柔軟性エクササイズは血管の硬さを改善する可能性があり、そうであれば筋膜リリースにも血管の硬さを緩和する効果が期待できるかもしれない。

血管の硬さは血管内皮機能に影響を受け、血管内皮細胞は一酸化窒素(Nitric Oxide:NO)等の産生を通じて、血管活動の重要な役割を担っている。しかし、フォームローラーを使った筋膜リリースが血管の硬さや血管内皮機能に与える影響については調査されていない。

そこで本研究は、フォームローラーを用いたセルフ筋膜リリースが血管の硬さと血管内皮機能に与える急性効果を調査することを目的とした。

方法

筋膜リリースが血管機能に与える急性効果を調査するために、ランダム化クロスオーバーデザインで、筋膜リリース群とコントロール(安静条件)群を比較した。介入前と、それぞれの条件遂行30分後にbaPWVと一酸化窒素を測定した。

被験者

健康な男女10名(男性7名:女性3名)
年齢19.9±0.3歳,身長162.7±8.1cm,体重60.6±11.2kg
数名の被験者は定期的な運動を行っていたが、ほとんどの被験者は1年以上特筆すべき運動を行っていなかった。また、すべての被験者は筋膜リリースを行った経験がなかった。

筋膜リリース

対象部位は内転筋群、ハムストリングス、大腿四頭筋、腸脛靭帯、僧帽筋を含む上背部。

フォームローラーを実施部位に当てて、体重で圧を加えながら前後にフォームローラーを転がす動きを各部位20往復行った。このプログラムは、おおよそ15分間で完遂された。

結果:NO baPWV↓

筋膜リリースの実施後、一酸化窒素濃度は有意に増加した。一方で、コントロール群の一酸化窒素濃度は変化しなかった。
また、筋膜リリース群のbaPWVは有意に低下した。一方、コントロール群のbaPWVは有意な変化を示さなかった。

筋膜リリースによる一酸化窒素の変化 筋膜リリースによるbaPWVの変化

考察:筋膜リリースは血管を若返らせうる

本研究では、フォームローラーを使った筋膜リリースがbaPWVを低下させ、一酸化窒素濃度を高めることを明らかにした。このことは、筋膜リリースが動脈に対してポジティブな影響を与える可能性を示唆している。

フォームローラーによる圧迫は血管内皮に刺激を与え、それにより血管拡張作用のある一酸化窒素が放出されたと考えられる。しかし、フォームローラーを使った筋膜リリースが、血管機能を変化させる正確なメカニズムは分かっていない。

リミテーション

本研究は、健康な若年層を対象とした為、高齢者や何らかの疾患を抱える人など、異なる特徴を持った対象者への効果については明らかではない。

現場への応用

健康な若年層において、筋膜リリースを行ったあと、PWVの減少と一酸化窒素濃度の増加が見られた。1回の実施でPWVの減少と一酸化窒素の増加が生じたので、長期的にフォームローラーを使った筋膜リリースを続けることで、血管の硬さを改善できる可能性がある。以上のことから、健康のために、筋膜リリースを日々のエクササイズプログラムに組み込むのは良いことかもしれない。

個人的感想

柔軟性と血管機能についての分野は非常に関心のある分野です。先行研究では、柔軟性の欠如は動脈硬化と相関があることや、中期的な静的ストレッチの介入によって血管年齢が若返ること、またヨガにも同様の効果がありそうだということ等が報告されていますが、今回はフォームローラーを使ったSMR(便宜上、筋膜リリースと書きました)にも血管機能に対してポジティブな影響があることが明らかになりました。

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今回は単発で行ったときの即時的な効果についての報告なので、長期的に実施した場合にも確かな効果が得られるのかということは、今後の報告を待ちたいと思います。

また、どのくらいの量を行うのが最適なのか等は、まだまだ明らかではないので「動脈硬化を予防するための筋膜リリースプログラムはこれです」というのを打ち出すことは難しいですが、ひとまずSMRには健康面でのメリットがあるということで、実施する意義のひとつにはなるかと思います。