スキンストレッチは、専用の金属器具を使用して、皮膚をさすったり、寄せたりすることで様々な効果が得られるコンディショニングツールです。軟部組織にアプローチするための、このような金属ツール全般をInstrument Assisted Soft Tissue Mobilization(IASTM)と呼んでいます。これらのツールは「かっさ」の現代版と捉えられています。
Contents
スキンストレッチのツールについて
スキンストレッチには、「ドルフィン」と「シーガル」という2種類のステンレスツールが用意されています。
スキンストレッチの効果
スキンストレッチは「皮膚運動学」に基づいて施術を行うことが特徴です。適切な方向に皮膚を誘導することで、以下の効果が期待できるとされています。
- 筋肉痛の予防・改善
- 柔軟性の向上
- 関節の安定化
- 動作の改善・コントロール
- 姿勢・バランスの改善
- 筋出力の増大・抑制、筋活動の促通・抑制
- 浅筋膜の癒着よる運動性の低下の改善
- 痛みの緩和
- 組織修復力の増加
スキンストレッチ公式HPより
▼スキンストレッチ紹介動画
セミナー概要
スキンストレッチでは、目標とするテクニックに応じて3段階のレベルが設けられています。
レベル1
スキンストレッチ ベーシック
【内容】
セルフケア
スキンストレッチの最もベーシックなセルフケア方法を学ぶ講習です。
- ツールの基本的な使い方
- 柔軟性の向上
- 関節可動域の拡大
- 筋肉痛・疲労の解消
- 肩こり腰痛の解消法
など
【受講料】
8,400円
レベル2
スキンストレッチ トレーナー
【内容】
パートナーストレッチとの組み合わせ
主にスキンストレッチを応用してパートナーストレッチが出来るようになる事を目的とした講習です。他人への施術を目的とするため、より深くスキンストレッチを学びます。
- 柔軟性の向上
- 関節可動域の拡大
- 筋肉痛・疲労の解消
- 肩こり腰痛の解消
- 痛みの緩和
などの応用編
【受講料】
21,600円
レベル3
スキンストレッチ スペシャリスト
【内容】
競技力向上への応用
治療やパフォーマンスアップまで、より深く幅広くスキンストレッチが出来るようになる為の講習です。以下のような事を重点的に学びます。
- 柔軟性・可動域の向上
- 筋肉痛の予防・改善
- 姿勢・バランスの向上
- 動作の改善・コントロール
- 筋出力の増大・筋活動の促通
- 組織修復力の増加
- 痛みの緩和
【受講料】
54,000円
大阪・関西地区でレベル1・2セミナーの受講希望の方
私は関西で最初にスキンストレッチ レベル3スペシャリスト認定を受けたうちの1人で、レベル1・2のセミナーを自主開催することができます。(関西地区のもう1人の認定者は白石泰章さん(スポーツ鍼灸&トレーニングラボ SOCIO代表)です。)
参加者が複数人集まれば、レベル1・2のセミナーを開催(レベル1のみ or レベル1・2同日開催)いたしますので、大阪または関西圏で受講希望の方は一度ご相談ください(また、購入およびセミナー受講を検討する上で、スキンストレッチを体験してみたいという方もご連絡ください)。
スキンストレッチLevel1・2セミナーを関西で初開催しました月刊スポーツメディスン2018年4月号『特集:皮膚への注目』に取材記事が掲載されました。
月刊スポーツメディスンにスキンストレッチについての取材記事が掲載されましたセミナー受講もしくは体験の際にツールを受け取ることも可能です(その場合は送料を負担する必要がなくなります)。
スキンストレッチのエビデンス
現時点(2017年4月)で、スキンストレッチを取り扱った学術論文はありません。そのため、グラストンテクニック等の他のIASTMに関する論文を参照することにします。もちろん、各ツールにはそれぞれのコンセプトがありますので、IASTMという一括りにして論文結果を解釈してよいのか?という妥当性の問題はありますが、スキンストレッチに関する報告が無い以上は仕方がないので、今回はそうします。
表面の皮膚温の上昇効果
2014年にPortillo-Sotoらが実施した下腿に対する10分間のIASTMトリートメント or ハンドマッサージを行った実験では、両条件において表面の皮膚温の上昇が報告されています(1)。また、皮膚温の上昇は施術を行わなかった反対側の下腿でも観察されました。
皮膚温上昇の持続性については、下図のとおり、トリートメント終了後60分経過しても、皮膚温はベースラインよりも5~6°高い状態を保っていました。なお、この研究において皮膚温上昇の効果は、マッサージの方が大きかったと報告されています。
ちなみに、皮膚温の上昇は血行の促進を意味していると推察されますが、この研究では直接的にそれを評価したわけではないという点にひとつの限界があるのと、この皮膚温の上昇(もしくは血行促進)が臨床的にどれほどの有益性があるのかについては定かではありません。
筋パフォーマンスに対するIASTMの効果
MacDonaldらは、健康な被験者にIASTMツールの施術を行ったときの、カウンタームーブメントジャンプのジャンプ高、ピークパワー、ピーク速度に対する影響を調査しました(2)。
IASTMツールによる3 分間の施術を大腿四頭筋もしくは下腿三頭筋に行い、これらを実験群とし(全体としては実験群1-大腿四頭筋グループ・実験群2-下腿三頭筋グループ・コントロール群の3群)、施術直後に事後テストのカウンタームーブメントジャンプを行いました。
その結果、事後テストは、事前テストのスコアと比較して、ジャンプ高、ピークパワー、ピーク速度のすべての評価項目において統計学的有意な差は認められませんでした。
この研究では、カウンタームーブメントジャンプというグローバルなテストが用いられているので、下肢筋力を単独で測定するような特異的なテストの場合は、異なる結果が得られる可能性もあります。
また、IASTMツールを適用した部位が一箇所であったため、関係する複数の部位に施術を行えば何らかの効果が得られる可能性もありますが、これは今後の研究を待つ必要があります。
この研究から、垂直方向へのジャンプパフォーマンスの直前にIASTMによる短時間・単独部位の施術を行ってもネガティブな影響を与えることは無いが、大きなメリットを得ることも難しそうだということが言えます。
関節可動域に対するIASTMの効果
関節可動域に対する効果について、2015年にMarkovicはサッカー選手を対象にしてIASTMとフォームローラーによるmyofascial releaseの膝関節と股関節の関節可動域への影響を比較しました(3)。
各群、大腿四頭筋とハムストリングスに対して2分間の介入を行ったあと事後評価を行った結果、両群で関節可動域の改善が認められました。しかし、フォームローラーは24時間後の再評価で効果が消失していたのに対し、IASTMは24時間後まで効果が残存していました。
関節可動域改善の効果については関連記事でも紹介しています。
【論文紹介】グラストンテクニック(IASTM)が野球選手の肩の関節可動域に与える急性効果 【論文紹介】グラストンテクニック(IASTM)の非特異的腰痛と柔軟性に対する急性効果前述のMarkovicの報告では、ウォームアップ中やストレッチを補完するツールとして、IASTMやフォームローラーは推奨されるとしています。
キャリーオーバー効果の可能性
肩峰下疼痛症候群を患うウェイトリフターに対するIASTMの治療効果を調べたCovielloらの症例報告では、IASTMを用いたトリートメントによる肩関節屈曲のActive Range of Motion(AROM)および痛みの改善効果が、次回の機会まで残存したと報告されています(4)。
つまり、IASTMによる効果は、その程度を減らしながらも数日間は持続する可能性があります。ただし、繰り返しになりますが、こちらはあくまでも症例報告(ケースレポート:n=1)であるため、エビデンスレベルは低いことに留意ください。
疼痛の緩和に対するIASTMの効果
2017年のシステマティックレビューでは、痛みの緩和について以下のように報告されています(5)。
これらの結果は、IASTMは血流の増加、組織の粘性の低下、myofascial release、疼痛受容体の遮断、および深部組織の柔軟性の向上によって生理学的変化に影響を及ぼす可能性があるという考えを支持する。 IASTMは、3ヶ月以内に疼痛を軽減し機能を改善する効果的な方法であることが示唆された。
IASTMについて,まだまだ明らかになっていないことが多い
近年、IASTMに関する論文数は増加してきていると感じますが、まだまだ分からないことが多いです。
スキンストレッチのコンセプトでもある皮膚運動の法則について記された書籍『皮膚運動学』の中では以下のように述べられています。
いくつかの臨床推論を重ね合わせると,これらの運動の変化は皮膚の物理的抵抗だけとは考えにくく,なんらかの神経作用が関わっているように考えられる.
皮膚運動学―機能と治療の考え方 p.27
つまり、スキンストレッチのコンセプトである皮膚の誘導に関しては、「たしかに運動の変化は観察されるものの、そのメカニズムは分からない」というのが現在の状況です。
また、2016年のIASTMに関するシステマティックレビューでは以下のように述べられています(6)。
IASTMは、 myofascial therapyの一般的な形態であるが、その有効性はエビデンスの不足と異質性のために完全には決定されていない。 現時点の研究と臨床の間にはギャップがあり、 最適なIASTMプログラム、器具のタイプ、施術時間、およびアウトカムに関して統一した見解は確立されていない。
厳格な方法論と完全にコントロールされた実験を実施し、グラストンテクニックなどのさまざまなIASTMツールを評価するには、今後の研究を待つ必要がある。 現在のエビデンスには、IASTM自体またはIASTMプロトコルの有効性を検証するために必要な方法論の精密さが欠けているようだ。
そのため、スキンストレッチに限らずIASTMツール全般に言えることですが、それらの効果について、質の高い研究報告に基づく十分な科学的根拠が蓄積されているわけではありません。
科学的根拠は十分ではないが…
とはいえ、実際にスキンストレッチを含むIASTMツールの効果を実感している人も大勢います。
私はパーソナルトレーナーという立場上、治療を行うことはできませんので、スキンストレッチの用途は可動域制限の改善や筋活動の促通などがメインになりますが、(もちろん効果の出方には個人差があるものの)驚くほど変化する人もいて、その効果の大きさを実感しています。
股関節や肩関節のつまり感の解消に
とくに、日頃のセッションではパートナーストレッチとスキンストレッチを組み合わせて使うことで、より円滑にストレッチを行うことができると感じています。ストレッチをしていると、通常の伸張感とは異なる“つっぱり感”や、股関節や肩関節の屈曲に伴う“つまり感”が出ることがあります。
例えば、大殿筋のストレッチを行うときに股関節前面のつまり感があると、大殿筋に伸張感を感じる前につまり感の痛みのせいで股関節屈曲動作が制限されてしまうことがあります。
この股関節のつまり感を改善するアプローチは、様々なパターンがあるとは思いますが、スキンストレッチを用いて適切な方向に皮膚を誘導することで、瞬時にそれらを解消することができます。
スキンストレッチは「クライアントの姿勢を変えずに」且つ「1分程度の短時間で」その問題を解消できるというところに利点があります。
この場合は、あくまでもパートナーストレッチはメインで行うという前提で、スキンストレッチはパートナーストレッチを円滑に行うための補助的なツールとして使用するというイメージです。
即時的な関節可動域の改善により,トレーニングをより効果的に
筋トレを行うときは、基本的には正しいフォームを維持できる範囲内で、できる限り大きな可動域で動作を行うことが、トレーニングの恩恵を得るために効率的であると考えています。
そのため、短時間の実施で関節可動域を広げることができるスキンストレッチは筋トレのセット間などにも活用できます。スクワットで深くしゃがんだときの股関節前部の抵抗感やオーバーヘッド動作時の肩の抵抗感が消失/軽減されます。
また、刺激を入れづらいと感じる部位にスキンストレッチを施すことで、その部位に効かせやすくなる、という感覚もあります。
まとめ
客観的なデータが不足している以上、個人の主観的な変化に頼るしかないため、試合の直前などのシリアスなシチュエーションで、IASTMが優先的に推奨されるかどうかは、今のところ判断することができませんが、日々のトレーニングやコンディショニングに取り入れる価値はあると感じています。
まだまだ発展途上の領域ですから、今後の研究報告を待ちながら、現場での経験値を積み上げていくことが大切だと思います。
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参考文献
- Portillo-Soto, A., Eberman, L. E., Demchak, T. J. & Peebles, C. Comparison of Blood Flow Changes with Soft Tissue Mobilization and Massage Therapy. J. Altern. Complement. Med. 20, 932–936 (2014).
- MacDonald, N., Baker, R. & Cheatham, S. W. THE EFFECTS OF INSTRUMENT ASSISTED SOFT TISSUE MOBILIZATION ON LOWER EXTREMITY MUSCLE PERFORMANCE: A RANDOMIZED CONTROLLED TRIAL. Int. J. Sports Phys. Ther. 11, 1040–1047 (2016).
- Markovic, G. Acute effects of instrument assisted soft tissue mobilization vs. foam rolling on knee and hip range of motion in soccer players. J. Bodyw. Mov. Ther. 19, 690–696 (2015).
- Coviello, J. P., Kakar, R. S. & Reynolds, T. J. SHORT-TERM EFFECTS OF INSTRUMENT-ASSISTED SOFT TISSUE MOBILIZATION ON PAIN FREE RANGE OF MOTION IN A WEIGHTLIFTER WITH SUBACROMIAL PAIN SYNDROME. Int. J. Sports Phys. Ther. 12, 144–154 (2017).
- Lambert, M. et al. The effects of instrument-assisted soft tissue mobilization compared to other interventions on pain and function: a systematic review. Phys. Ther. Rev. 1–10 (2017). doi:10.1080/10833196.2017.1304184
- Cheatham, S. W., Lee, M., Cain, M. & Baker, R. The efficacy of instrument assisted soft tissue mobilization: a systematic review. J. Can. Chiropr. Assoc. 60, 200–211 (2016).