トレーナーが知っておきたい自己選択バイアス

自己選択バイアス

自己選択バイアスとは、実験やアンケート調査への参加の可否が、その人に委ねられている場合に生じるバイアスです。

実験やアンケートへの参加が協力的な人と非協力的な人では、実験結果やアンケートへの回答内容が異なる可能性があるため、問題とされています。

つまり、参加の可否を個人に委ねると、参加者の構成は協力的な人たちの比率が高くなり、世間一般の意見や結果を反映しているとは言えなくなってしまう、ということです。

自己選択バイアスの実例

自己選択バイアスの問題

実例を見ながら、自己選択バイアスについて考えていきます。

以前、自宅のポストに被験者(アンケート協力者)募集のチラシが入っていたことがあります。そのチラシは関西の有名私大の経済学部が発行したもので、「消費活動に関するあなたの考えを聞かせてください。○月○日に△△キャンパスに来られる方のご協力をお願いします。」とありました。謝礼も出るとのことでした。

この方法にはいくつかの点で、自己選択バイアス、外的妥当性の問題があります。

どのような考えを持った人が集まりやすいか?

まず、このような「参加をお願いする」形式だと、わざわざスケジュールを割いてまで参加しようと思う人は「日頃から、消費活動など経済の分野に関心がある人」という傾向が強まるという問題です。

少し大袈裟な言い方をすれば、あらゆる面の思想が特異的になる可能性があるということです。

本人の意思によって参加の可否が決められる場合、被験者が集まった時点で、その集団は世間の人を偏り無く凝縮しているとは言えず、特定の考えを持った集団という条件がつくことになります。

参加しやすいのは誰か?

また、そのチラシによると、アンケートを取る日程が決められており、それが平日の午前~夕方に複数開催(そのうち、どこか一回に参加)でした。

これによる問題は、被験者として参加できるのは、平日のその時間帯に自由に動ける人に限られてしまうということです。集まった被験者は、主婦層や仕事をリタイヤされた方たちの比率が大きくなることが容易に予想されます。

そうなると、被験者は「世間一般の人たち」ではなく「平日の昼間に自由に動ける立場の人で、日頃から消費活動などの経済に関心がある人」ということになります。

さらに、アンケートは一カ所のキャンパスでの開催でした。これによる問題は、そのキャンパスに近い地域に住む人で被験者が構成される可能性が高いということです。これは地域性の影響を受けることになります。

となると、さらに条件を付け加えて、被験者は「アンケート調査を行ったキャンパス付近の地域に住居を持つ、平日の昼間に自由に動ける立場の人で、日頃から消費活動などの経済に関心がある人」ということになります。

また、謝礼が出るというインセンティブを考えれば、決して多くはない謝礼のためにキャンパスまで出向く=経済的に豊かではない可能性もあり、経済力という面で被験者に偏りが生まれる可能性もあります。

いずれにしても、アンケート調査への協力に意欲的という時点で、自己選択バイアスの問題に直面することになります。

研究の限界について理解する

そして、このような調査で得られた結果を、「アンケート調査を行ったキャンパス付近の地域に住居を持つ、平日の昼間に自由に動ける立場の人で、日頃から消費活動などの経済に関心がある人は、○○という傾向にある」と解釈するのなら妥当ですが、「世間の人たちは○○という傾向にある」というように、被験者とは違った背景を持つ人たちにまで結果を一般化させると、これは研究/実験の限界を無視している、ということになります。

これは健康に関する意識調査などでも、同様の問題が起こる可能性があります。つまり、その調査に参加しようと思ったということは、参加しなかったその他大勢の人よりも、少なからず健康に関する意識が高いということです。

たとえば、「筋トレに関する意識調査」と題して被験者を募集するとします。参加の可否は個々人に委ねられるので、この場合は、日頃から筋トレに興味がある人が集まりやすいと考えられます。

そういった人たちに対して「健康に過ごすために筋トレは必要だと思いますか?」と質問すれば、「YES」の回答率は本来(=真実の値)よりもおそらく高くなります。

この結果を根拠に「世の中には、これだけの割合で筋トレ支持派がいる」と言うと、誤った解釈になってしまう、というわけです。

頑張りすぎる被験者

また、少し違った問題として、あなたがある健康器具を使ったホームエクササイズのモニター/実験(謝礼付き)に参加したとします。

モニター参加者に対して定められたエクササイズ内容を超過することは無いにしても「検者の人が望む結果になるように、しっかり頑張らないとな」という考えが無意識的に多少なりとも働きそうだと思いませんか?

本来であればお金を払って受けるサービス/商品を無料で受けられる上、謝礼まで貰える、となると返報性の法則によって、相手に都合の良い結果を「お返し」しないと、という気持ちが働きやすくなります。

モニターに参加した人は、そのような協力的な精神状態にあるわけですが、モニターではなく一般で、通常の金額を払ってサービス/商品を得た人はどうでしょうか?「お金を払ったんだから、それに見合った効果をくださいね」という考えになる人も多いのではないでしょうか。

このモチベーションの違いが、結果に差を生む可能性があります。

以上のような自己選択バイアスは、気にしながら生活していると様々なシーンで見つかります。ビジネスが関わっている場合、意図的に操作されていることもあるので、注意が必要です。