【論文紹介】筋トレ vs. 静的ストレッチ|どちらが柔軟性を向上させる?

筋トレvs静的ストレッチ

Resistance training vs. static stretching: effects on flexibility and strength.

Morton SK, Whitehead JR, Brinkert RH, Caine DJ.
J Strength Cond Res. 2011 Dec;25(12):3391-8. doi: 10.1519/JSC.0b013e31821624aa.

背景

筋トレが柔軟性に与える影響については、まだまだ十分に研究されていない領域のひとつである。半世紀前、ある“迷信”が、まだ広く信じられていた。それは「筋トレをして筋肥大すると、柔軟性が失われる(=Muscle bound)」ということである。

その迷信について調査した研究もいくつかは存在した。

Massey and Chaudetは、若年男性における高重量の筋トレが、柔軟性に与える影響について調査したが、これは研究デザインの問題で、結論は曖昧と言わざるを得ないものであった。

Leightonは、ボディビルダーおよびウェイトリフター群と、非鍛錬男性群が5週間筋トレを行ったときの柔軟性の変化を比較した。その結果、柔軟性は失われるどころか、改善した。しかも、ボディビルダーやウェイトリフターの方が、その程度は大きかったと報告している。

それから20数年後、Girouard and Hurleyは、筋トレと柔軟性トレーニングを組み合わせると、柔軟性トレーニング単体で行うときよりも、柔軟性獲得の効果を弱めると報告した。

しかし、その研究はマシンを使った筋トレを行っていた。マシンとフリーウェイトでは動作中の可動域が異なるため、柔軟性への影響も違ったものになる可能性がある。

そこで本研究は、静的ストレッチとフルレンジの筋トレが柔軟性に与える影響について比較することを目的とした。

方法

被験者

42名を以下の3群に分類した。すべての被験者は、Midwestern universityの学生で、トレーニング習慣は無かった。

  1. レジスタンストレーニング(RT:筋トレ)群
  2. スタティックストレッチング(SS:静的ストレッチ)群
  3. コントロール群
最終的な被験者数は36名(各群12名×3)

実験の流れは以下のとおり。

実験の流れ

筋力測定

Biodexを使用して、膝関節屈曲および伸展時のピークトルクを測定した(角速度180°/秒)。

柔軟性の評価

  • Knee Extension Assessment Test
  • Hip Flexion Test
  • Hip Extension Test
  • Arm Lift Test

4種類の柔軟性テスト

トレーニング内容

RT(筋トレ)群

筋トレ群は、CSCSによって作成された5週間のトレーニングプログラムを実施した。被験者たちは、すべてのレップをフルレンジで行うように特に強調された。CSCSがすべてのセッションを監督し、1セッションは45分~1時間であった。毎回のセッションは、ウォームアップのステーショナリーバイク(5分間)から開始された。筋トレ群の被験者は、実験期間中、いかなるストレッチも控えるように指示された。

SS(静的ストレッチ)群

静的ストレッチ群も、CSCSによって作成されたストレッチプログラムを実施した。CSCSはすべてのストレッチングセッションを監督し、1セッションは25~35分間であった。静的ストレッチ群は、ウォームアップは行わずにプログラムを実施した。静的ストレッチ群の被験者は、実験期間中、与えられたプログラム以外の身体活動を控えるように指示された。

具体的なプログラム内容は下表を参照。

筋トレ群と静的ストレッチ群のプログラム一覧

結果

Knee Extension Assessment Test

コントロール群と比較して、筋トレ群と静的ストレッチ群の方が統計学的有意に増加していた。筋トレ群と静的ストレッチ群の間には有意差は認められなかった。

Hip Flexion Test

コントロール群と比較して、筋トレ群と静的ストレッチ群の方が統計学的有意に増加していた。筋トレ群と静的ストレッチ群の間には有意差は認められなかった。

Hip Extension Test

コントロール群と比較して、筋トレ群と静的ストレッチ群の方が統計学的有意に増加していた。筋トレ群と静的ストレッチ群の間には有意差は認められなかった。

Arm Lift Test

いずれの群間においても、有意差は認められなかった。

膝関節伸展筋力

コントロール群と比較して、筋トレ群の方が統計学的有意に増加していた。筋トレ群と静的ストレッチ群の間および、静的ストレッチ群とコントロール群の間には有意差は認められなかった(下図A)。

膝関節屈曲筋力

いずれの群間においても、有意差は認められなかった(下図B)。

筋力の変化

考察

筋トレ群と静的ストレッチ群の柔軟性の改善度合いに違いはなかった。そのため、筋トレをすると柔軟性が損なわれるという考えには、強い疑問を抱かざるを得ない

今回、実験期間が短かったのは本研究のリミテーションであると考えられる。トレーニング期間が長くなり、筋肥大が生じた場合は、本研究と反応が異なる可能性もある。

個人的感想

今から約4年前にこの論文を読み、興味を持ったことで、私の修士課程での研究テーマが「筋トレが柔軟性に与える影響」に決まりました。そういう意味で印象深い論文の一つです。

本文内で著者も再三、言及していますが、この研究はデザインが強固なものではないので、結論を出すためには今後の研究を待つ必要があるという点に注意が必要です。

個人的に気になった点をいくつか挙げます。

柔軟性の評価方法について

まず、柔軟性の評価方法です。4つ行われた測定のうち、3つはActive ROMを評価しています。Active ROMは被験者自身が動作を行う必要があるので、能動的な要素が入ってくるということです。ということは、単純に筋腱の伸張性のみならず、被験者の主働筋の筋力をはじめとした、様々な要素が影響してくることになります。

たとえば、Hip extension flexibilityの測定では、股関節の伸展可動域を評価していますが、これは仮に股関節前面の伸張性が変わっていなくても、殿筋群が強化されれば、この伸展可動域は増加する可能性があります。殿筋が強ければ、より力強く股関節を伸展させられるからです。

このような筋力増加による関節可動域(Active ROM)の拡大を、「柔軟性の改善」と判断してよいかは、シチュエーションによって異なると考えられます。

関節可動域の増加という表面的な結果は同じかもしれませんが、そこにたどり着くまでの道筋が異なるかもしれない、ということです。

 

プログラムの統一性の問題

2つ目は、セッションの時間に大きな差があることです。筋トレ群は45~60分、ストレッチ群は25~35分です。

さらに、ストレッチ群はウォームアップを行わずにプログラムを実施したという点についても、統一されていないのは気になります。

「フルレンジ」の定義

3つ目は、プログラムについてです。筋トレはフルレンジで行うことが強調されていますが、今回の実験で行われたトレーニングプログラムの各エクササイズの「フルレンジ」の定義は明らかではありません。

また、使用した重量が具体的に報告されていません。反復回数についても「回数は1週目から5週目にかけて、わずかに変化させた」とは記述がありますが、実際にどのように変化させたかは記されておらず、曖昧さが残ります。

被験者属性について|外的妥当性の問題

今回の被験者のように運動習慣の無い人であれば、方法が何であったとしても、とにかく体を動かせば、関節可動域が増加する可能性はおおいにあると思います。

ですから、今回の研究結果をアスリートに適用するのは、かなりの無理があります。5週間という期間では、顕著な筋肥大も得られていないでしょうから(そもそも筋トレ群のピークトルクの変化が、静的ストレッチ群と比較して有意差が無かったということを考えれば、筋トレが適切に実行されたかの根拠も乏しい)、長期的に続けて、明確な筋量の増加が生じたときに、関節可動域にどのような影響が出るのかは明らかではありません。

そのため、PRACTICAL APPLICATIONSで述べられている「アスリートは、すでにレジスタンストレーニングを行っているため、これまで考えられていたようにストレッチを追加する必要性は乏しいかもしれない。」というのは、飛躍した主張だと言えます。

誤解のないように、念のため記しておくと、私は「筋トレをすることで柔軟性が損なわれる」とは思っていません(現時点で発表されている関連文献を読めば、そのように判断できる)し、「だからストレッチをしないといけないんだ」とも思っていません(目的に対する手段は1つではないし、シチュエーションによってベストな選択は変わるため)。

この論文は、タイトル的にインパクトがあり、「筋トレ vs. 静的ストレッチ」という対立構造で考えた結果、「筋トレの方が一石二鳥(筋力も上がって、柔軟性も向上)で優れている」と解釈してしまいかねないのですが、そこまで結論づけられる内容ではないので注意が必要です。

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参考文献

  1. Massey, BH and Chaudet, NL. Effects of systematic, heavy resistance exercise on range of joint movement in young male adults. Res Q 27: 41–51, 1956.
  2. Leighton, JR. A study of the effect of progressive weight training on flexibility. J Assoc Phys Ment Rehabil 18: 101–104, 1964.
  3. Girouard, CK and Hurley, BF. Does strength training inhibit gains in range of motion from flexibility training in older adults? Med Sci Sports Exerc 27: 1444–1449, 1995.