【論文紹介】長期的な筋トレで柔軟性は増加する?また、性差はあるか?

長期的な筋トレが柔軟性に与える影響

Effect of resistance training on flexibility in young adult men and women

Ribeiro, Alex S. | Campos-Filho, Marçal G.A. | Avelar, Ademar | Santos, Leandro dos | Júnior, Abdallah Achour | Aguiar, Andreo F. | Fleck, Steven J.| Júnior, Hélio Serassuelo | Cyrino, Edilson S.
Isokinetics and Exercise Science, vol. 25, no. 2, pp. 149-155, 2017

研究背景

一般的に柔軟性の維持、増加にはストレッチングが推奨されている。しかし、ストレッチングだけではなくレジスタンストレーニングも、柔軟性の増加に寄与することが複数の研究により報告されている。

そのため、レジスタンストレーニングは時間が節約できる効率の良いアプローチであると考える人もいる。先行研究では、定期的なレジスタンストレーニングは典型的な静的ストレッチングと同程度の柔軟性改善効果をもたらすとの報告もある(その研究についての記事はこちら)。

レジスタンストレーニングが柔軟性に与える影響について調査した研究は増えてきているものの、それらの実験期間は4~12週間の研究が多い。そのため、レジスタンストレーニングを長期的に継続したときの柔軟性への影響については明らかではない。また、柔軟性には男女差があることが知られており、そのことを考慮するとレジスタンストレーニングを長期的に続けたときの反応にも男女差が現れる可能性がある。

上記のような背景を鑑みて、本研究では長期的にレジスタンストレーニングを実施したときの柔軟性への影響を、性差も含めて検討することとした。

方法

被験者は大学および地域で募集された89名(男性42名、女性47名)であった。彼らは非活動的(本研究では身体活動の実施が週2回以下と定義)な者で、加えて実験に参加する少なくとも半年前からレジスタンストレーニングは行っていないことが条件であった。

実験を遂行した者は、男性28名(42名中)、女性30名(47名中)であった(実験からドロップアウトした理由は、トレーニングセッションへの参加率が低いこと(85%未満)と個人的な事情による参加辞退)。

筋量の推定

Leeらの方法1に従い骨格筋量を算出した。

SMM(kg) = 0.244×BW+7.8×H+6.6×S-0.098×A+R-3.3

SMM=骨格筋量、BW=体重(kg)、H=身長(m)、S=性別(男性=1・女性=0)、A=年齢(年)、R=人種(アジア人=-1.2、アフリカ系アメリカ人=1.4、白人=0)

柔軟性の測定

以下の9つの関節可動域を測定した。

  • 肩関節伸展可動域(左右)
  • 肩関節屈曲可動域(左右)
  • 股関節屈曲可動域(左右)
  • 体幹屈曲可動域
  • 体幹側屈可動域(左右)

筋力の測定

実験開始前と16週間の実験終了後にベンチプレス、スミスマシンスクワット、アームカールの1RMテストを行った。

レジスタンストレーニングプログラム

筋肥大を目的としたプログラムを週3回実施した(トレーニング日は連続しないように設定)。トレーニングはインストラクターの監督下で行われた。プログラムはフリーウェイトとマシンを組み合わせた内容で、上肢、体幹、下肢を鍛えられるように計画された。

1~8週目は第一段階のプログラムであり、主要筋群にアプローチする以下のエクササイズで構成された。(数字の順で実施)

  1. ベンチプレス
  2. レッグプレス
  3. ワイドグリップビハインドネックプルダウン
  4.  レッグエクステンション
  5.  サイドラテラルレイズ
  6.  レッグカール
  7.  トライセプスプッシュダウン
  8.  カーフプレス
  9.  アームカール
  10.  アブドミナルクランチ(自重)50~100回×3セット

 

9~16週目の第二段階のプログラムでは変更が加えられ、以下のエクササイズで構成された。(数字の順で実施)

  1. ベンチプレス
  2. インクラインダンベルフライ
  3. ワイドグリップビハインドネックプルダウン
  4. シーテッドケーブルロウ
  5. シーテッドバーベルミリタリープレス
  6. ライイングトライセプスプレス
  7. アームカール
  8. レッグエクステンション
  9. レッグプレス
  10. ライイングレッグカール
  11. シーテッドカーフレイズ
  12. アブドミナルクランチ(自重)50~100回×3セット

フリーウェイトおよびマシントレーニングは8~12回反復できる重量で8~12回×3セットに設定された。例外的にカーフエクササイズは15~20回×3セット行った。コンセントリック局面とエキセントリック局面の比率は1:2になるように指示され、セット間レストは60~90秒、種目間レストは2~3分とした。

被験者はすべてのセットにおいて、挙上が困難になるまでトライするよう努力した。使用重量は、Ribeiroらの最大反復テスト2に基づいて、週に1度調整した。

結果

骨格筋量と肩関節伸展可動域、肩関節屈曲可動域、股関節屈曲可動域、体幹屈曲可動域、体幹側屈可動域において統計学的有意な時間の主効果が認められた。男女両方とも、骨格筋量の変化は同程度の増加であった(下図参照)。

骨格筋量の推移

柔軟性の増加の程度も男女差は無かった。例外的に、股関節屈曲可動域と体幹屈曲可動域に関してはMidからPostにかけて減少していた(下表参照)。

柔軟性の変化一覧

筋力については以下の図のとおり。男女ともに1RMは有意に増加した。ベンチプレス(男性=+20.8%、女性=+29.2%)、スクワット(男性=+12.7%、女性=+16.1%)、アームカール(男性=+15.3%、女性=+20.8%)

筋力の変化男性筋力の変化女性

考察

本研究が新たに明らかにした主なことは、レジスタンストレーニングによる柔軟性の適応には性差が無いということである。レジスタンストレーニングを行うことで柔軟性が増加することは、先行研究において、非鍛錬の成人女性3-8、非鍛錬の成人男性4,7,9,10、高齢女性11、高齢男性12、レジスタンストレーニングの習慣がある人13、柔道選手14を対象に調査されている。

レジスタンストレーニングによる柔軟性の変化のメカニズムは未だ明らかにはなっておらず、本研究もメカニズムを解き明かすデザインではない。それを承知の上で、考えられるメカニズムについて推測するとすれば、レジスタンストレーニングによって筋および、そのほかの軟部組織のスティフネスが減少し、その結果、関節可動域が増加した可能性が挙げられる。繰り返しになるが、この仮説を証明するには、さらなる研究が必要である。

また、レジスタンストレーニングによる関節可動域の増加は、その関節の動作を含む種目を行ったときに得られるものと推察される。

本研究において、肩関節屈曲の可動域は後半の8週目(=すべての実験期間)を終えたときに初めて有意な変化となった。これは後半8週間のレジスタンストレーニングのプログラムには肩関節の動作を含むエクササイズが十分に含まれていた(例:インクラインダンベルフライ)ことに起因する可能性がある。

以上のことから、「エクササイズで動かした関節周りの柔軟性が高まる」という仮説が考えられるが、こちらも確証を得るためには更なる調査が必要である。

肩関節伸展可動域と体幹側屈可動域は、前半の8週間で増加したが、後半の8週間でさらに増加することはなかった。この適応パターンは、トレーニングを開始した初めの頃に大きな変化が生じやすいという典型的な適応パターンに類似している。

つまり個々のトレーニング歴に左右されるということであり、トレーニング経験を積むに従って、次第に得られる効果は小さくなっていく。

本研究の被験者はトレーニング習慣の無い者であったので、最初の期間に大きな変化が生じたものと推察される。最初のうちはレジスタンストレーニングだけで柔軟性を増加させることができるが、そこからさらに柔軟性を求める場合は、レジスタンストレーニングだけではなく、より特異的な柔軟性トレーニングを行う必要があるかもしれない

最初の8週間終了後、体幹屈曲可動域と股関節屈曲可動域は増加したが、後半の8週間終了時点では減少して、ベースラインの値に戻っていた。なぜこのようなことが起こったかは、今のところ分からない。

しかし、長期間のレジスタンストレーニングの実施によって柔軟性が損なわれることはないし、筋肥大の結果、柔軟性が低下することもない。このことは、ウェイトリフターたちが平均もしくは平均以上の柔軟性を有していることからも窺える。

結論

本研究結果はレジスタンストレーニングが柔軟性を改善する、少なくとも柔軟性の維持に貢献することを示している。加えて、その柔軟性の変化は、性別による差は無く、レジスタンストレーニングの実施期間に左右されるようだ。

個人的感想

「先行研究で行われている12週間の実験は短いから、長期的な効果を調べました」ということであれば、16週間よりも、もう少し長い期間の影響が見たかったなあというのが正直な感想です。

後半の8週間で、柔軟性が逆行した動き(体幹屈曲・股関節屈曲)に関しては、さらに期間が長くなればベースラインよりもマイナスになる可能性も否定できません

それから、16週間の実験を遂行できた被験者の割合が男性で67%、女性で64%というのは、なかなか低い数値ではないでしょうか。被験者脱落の理由は、トレーニングセッションへの出席率が低い(<85%)ことと私情とのことで、それぞれの割合は示されていないので何とも言えませんが、今回のトレーニングプログラムが厳しすぎたという可能性もあります。

レジスタンストレーニングだけでも柔軟性の維持改善ができるという報告が多数あるとは言え、レジスタンストレーニングだけで柔軟性の側面を完全にカバーできるとは思わないので、本文中にもあるように、やはり特異的なアプローチが必要にはなってくると思います。

筋トレvs静的ストレッチ 【論文紹介】筋トレ vs. 静的ストレッチ|どちらが柔軟性を向上させる? 【論文紹介】異なるセット数のレジスタンストレーニングが柔軟性に与える影響 【論文紹介】筋トレとダイナミックストレッチングの組み合わせが筋力と柔軟性に与える影響

参考文献

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