【論文紹介】異なるセット数のレジスタンストレーニングが柔軟性に与える影響

Effects of Different Number of Sets of Resistance Training on Flexibility

LEITE, THALITA B.; COSTA, PABLO B.; LEITE, RICHARD D.; NOVAES, JEFFERSON S.; FLECK, STEVEN J.; SIMÃO, ROBERTO
International Journal of Exercise Science . 2017, Vol. 10 Issue 3, p354-364.

背景

先行研究において、(ストレッチ等の柔軟性トレーニングを含まない)レジスタンストレーニング単独の実施であっても、関節可動域が増加することが報告されている。

しかし、長期間に渡るトレーニングの実施において、異なるトレーニングボリュームが柔軟性にどのような影響を与えるかを検討した報告はほとんど見当たらない。

そこで本研究は、6ヵ月間の異なるセット数のレジスタンストレーニングが柔軟性に与える影響を調査することを目的とした。

方法

被験者

被験者は男性47名であった(年齢24±1歳、体重79.39±9.12㎏、身長174.5±5.6㎝)。

すでにレジスタンストレーニングおよび柔軟性トレーニングを実施している者や、サプリメントを服用している者は、被験者には含まれないようにした。

被験者は柔軟性の事前測定終了後、ランダムに以下の4つのグループのうちのいずれかに割り当てられた。

  1. 1セット実施群(12名)
  2. 3セット実施群(13名)
  3. 5セット実施群(13名)
  4. コントロール群(9名)

上記の1~3のトレーニング群が実施したエクササイズ、および実施順序は以下のとおり。コントロール群はトレーニングに参加しないこととした。

  1. ベンチプレス
  2. レッグプレス
  3. ラットプルダウン
  4. レッグエクステンション
  5. ショルダープレス
  6. レッグカール
  7. バイセプスカール
  8. クランチ
  9. トライセプスエクステンション

レジスタンストレーニングは週3回実施とし、セッション間は48~72時間あけるように設定した(実験期間のトータルセッション数は72)。

重量は8~12RMに設定し、適切に反復できなくなるまでを1セットとした。セット間レストは90~120秒であった。1セットの反復可能回数が12回を超えた場合、重量を増加させた。

すべてのセッションは実験者によって監督され、被験者は実験期間中は有酸素運動と柔軟性トレーニングの実施は禁止された。

柔軟性

柔軟性の評価として長座体前屈と関節可動域の測定を行った。長座体前屈の測定はACSMのガイドラインに従い、3回実施したうち最も良いスコアを採用した。

関節可動域はゴニオメーターを用いて10箇所の関節運動(肩関節屈曲・伸展・外転・水平内転、肘関節屈曲、股関節屈曲・伸展、膝関節屈曲、体幹屈曲・伸展)を評価した。

結果

長座体前屈

6ヵ月間のトレーニングの結果、すべてのトレーニング群(1・3・5セット実施群)はトレーニング前と比較して、有意に長座体前屈のスコアが増加した。しかし、コントロール群と比較して有意に高値を示したのは5セット実施群のみであった。

レジスタンストレーニングによる長座体前屈の変化

関節可動域

1セット実施群において肩関節屈曲可動域の増加、3セット実施群において肩関節伸展・肘関節屈曲・膝関節屈曲可動域の増加がみられた。

いずれの関節においても、群間に有意な差は認められなかった。

考察

本研究での主な結果は、柔軟性を含まないレジスタンストレーニングは、柔軟性を増加させるということである。加えて、実施したトレーニングボリュームの大小は、柔軟性への変化量に寄与しないことも示された。

今回の実験のリミテーションとして、本研究はマシンでのトレーニングを実施したが、フリーウエイトの場合は動作の軌道や可動域が異なるため、柔軟性に対する影響も異なる可能性がある。

結論

本研究結果から我々は、レジスタンストレーニングを行うことで、いくつかの関節においては可動域を向上させ、少なくとも柔軟性にネガティブな影響を与えないと結論づける。なお、実施したセット数に関わらず柔軟性は増加した。

S&Cコーチや健康に関わる運動指導者は、たとえ柔軟性エクササイズを行わなくとも、レジスタンストレーニングを行うだけで柔軟性の増加が得られると考えてよいと言える。

個人的感想

この報告は「筋トレしたら身体硬くなるんでしょ?」という、よくある問いに関する研究です。

私の修士課程の研究テーマは「(柔軟性エクササイズを含まない)レジスタンストレーニングが柔軟性に与える影響」でしたので、この領域の報告は、ほとんど把握しているつもりです。

今回は、いくつもある先行研究の中でも2017年に発表された新しいものをセレクトしましたが、指標が長座体前屈と関節可動域のみ、というのは、やや物足りない印象です。トレーニングをしたのなら、最低でも筋力の変化も見てもらいたかったところです。

なお、本文の方には、エフェクトサイズの記述もありますが、解釈が難しい印象です。

ストレッチ等を行わなくても、レジスタンストレーニングを実施するだけで関節可動域が増加することに関しては賛同できますが、先行研究にみられる「レジスタンストレーニング単独の実施であっても、静的ストレッチの実施時と同程度の柔軟性の改善が得られるのだから、柔軟性の改善という点において、レジスタンストレーニングは静的ストレッチの代用となりうる1」という主張には、これまでの研究のリミテーションを考えると、完全には賛同できません。

その他の先行研究も、徐々に紹介していきたいと思います。

長期的な筋トレが柔軟性に与える影響 【論文紹介】長期的な筋トレで柔軟性は増加する?また、性差はあるか? 筋トレvs静的ストレッチ 【論文紹介】筋トレ vs. 静的ストレッチ|どちらが柔軟性を向上させる? 【論文紹介】筋トレとダイナミックストレッチングの組み合わせが筋力と柔軟性に与える影響

参考文献

  1. Morton SK, Whitehead JR, Brinkert RH, Caine DJ (2011) Resistance Training vs. Static
    Stretching: Effects on Flexibility and Strength. J Strength Cond Res 25:3391–3398