PNFストレッチングが柔軟性に与える影響|論文まとめ

PNFストレッチが柔軟性に与える影響|論文まとめ

proprioceptive neuromuscular facilitation (以下、PNF)ストレッチングは、パッシブ(受動的)なストレッチングと能動的な筋活動から構成されるストレッチング方法です。

今回は、複数の研究論文を参考にしながらPNFストレッチングが柔軟性に与える影響についてまとめていきます。

この記事は、柔軟性の向上に焦点をあてて書いています。そのため、記事内で使われる「効果」という言葉は、「柔軟性の向上」を意味しています。

PNFストレッチングのテクニック

PNFストレッチングは具体的にどのように行うか

PNFストレッチングの構成は、各人で多少の差があるかとは思いますが、ここではNSCAのテキストに掲載されている内容を基準にします。

掲載されているテクニックは以下の3パターンです。

PNFストレッチのテクニック

研究論文では、どのような形式で行われているか

研究では、PNFストレッチングは具体的にどのようなテクニックが使われていて、どのくらいの秒数が設定されているのかを確認しておきます。

すべてを取り上げるとキリがないので、今回は2000年以降に発表された論文で被引用数が多いもの10件+直近3年以内に発表された論文をリストアップしました。

PNFストレッチの形式

ほとんどの論文で、(NSCAが言うところの)予備伸張の秒数については記述がありませんでした。「まずは最大可動域までもっていき、そこで等尺性収縮を行った」というような感じの表現が多く、今回チェックした論文の中ではWickeら(2014)とKonradら(2014),(2017)だけが予備伸張の時間を設定していました。

筋活動については、等尺性筋活動を採用しているものばかりで、秒数は5~10秒間の収縮をさせています。その後のパッシブストレッチの伸張時間には5~30秒の幅がみられます。

セット数はおおよそ3セット実施されています。

わざわざこのようにリストアップしたのは、研究で行われているPNFストレッチングと現場で行われているPNFストレッチングに大きな乖離がないことを確認するためです。

もし、いま自分自身が実施しているPNFストレッチングが、上記の内容と全く異なる場合は、これからご紹介する研究報告を参考にすることが適切ではない可能性もあります。ご注意ください。

スタティックストレッチングとPNFストレッチングの比較|短期的効果

Borgesら(2017)がシステマティックレビュー&メタアナリシスにて、ハムストリングスを対象にしたPNFストレッチングの効果をまとめてくれています。以下はそのレビューの中から、短期的な介入を行った研究報告を抜き出したものです。

PNFストレッチングの短期的な効果

このレビュー論文ですが、紹介したものの、内容(伸張時間等)に誤りがある箇所があったり、リストアップされている報告が参考文献の中に記載されていなかったりしていて、個人的には細かい情報の信頼性は低いです。表右端の結果だけを、なんとなく参考にする程度が良さそうです。

また、この表の「内容」の部分はPNFストレッチングの筋活動の局面は除外したパッシブストレッチの時間を記載しているようなので、正直この表を眺めるだけではディスカッションできるほどの情報が入ってきません。

たとえば、表中のMiyaharaら(2013)の報告は、「PNF(CRAC) 10秒×5」と記述されていますが、実際に行われたのは「予備伸張10秒→等尺性筋活動6秒→アゴニストコントラクションを伴うパッシブストレッチ30秒を1セットとし、それを5セット(セット間レストは14秒)」です。

表の記述を信じて、「スタティックストレッチング45秒×5よりも、PNFストレッチング10秒×5の方が効果が大きい。PNFすごい!」と思ってしまうと、とんでもない誤解をしてしまうことになります。

実際に費やした時間は、スタティックストレッチング225秒、PNFストレッチング230秒です。

話が脱線してしまいましたが、レビュー論文の結論としては、「スタティックストレッチングもPNFストレッチングも等しく効果的である」という内容です。

スタティックストレッチングとPNFストレッチングの比較|中長期的効果

次は、中長期的なスタティックストレッチングとPNFストレッチングの効果を比較した研究をみていきます。

さきほどと同様にBorgesら(2017)のシステマティックレビューの中から、中長期的な介入を行った研究報告を抜き出したものです。

PNFストレッチングの中長期的な効果

結論としては、中長期的な効果についても、スタティックストレッチングもPNFストレッチングもハムストリングスの柔軟性を向上させるには効果的で、どちらかに優劣がつくわけではない、というものでした。

同様に、Lempkeら(2018)のCritically appraised topic(CAT)において、「採用された5件の論文のうち、1件がPNF>スタティックストレッチングで、残りの4件はPNF=スタティックストレッチング」、Hillら(2017)のCATでも「PNFストレッチングとスタティックストレッチングは同程度ハムストリングスの柔軟性を改善させる」と報告されています。

気になるのは、指標がStraight leg raiseやKnee extension testを使っているものばかりという点です。これだと単純にROMの変化だけしか観察することができず、可動域の変化の要因まで踏み込んで考察することができません。

そんな中、上記の表に含まれていない論文で、Kayら(2015)はPNFストレッチングがROMとスティフネス、ストレッチトレランスに与える即時的影響を検討しています。

その報告によると、合計60秒間のスタティックストレッチングと比べて、PNFストレッチング(予備伸張10秒→等尺性筋活動5秒×3セット)の方が、より大きなROMの増加が得られたとされています。さらに、PNFストレッチングは、筋と腱のスティフネスを低下させたことも併せて報告されており、PNFストレッチングによってメカニカルな変化が生じてることを示しています。

今後は、このようなパッシブトルク等の測定も含めた研究報告が増えてくることに期待します。

セルフPNFストレッチングも含まれている

さきほどの表の最下段のYıldırımら(2016)は、スタティックストレッチングよりもPNFストレッチングの方が効果的であると報告しています。少し具体的に見ていきます。

スタティックストレッチング vs. セルフPNFストレッチング

この研究では、PNFはPNFでも「セルフPNFストレッチング」を採用しています

スタティックストレッチング群は、膝伸展の状態でハムを伸ばすストレッチングを30秒×10セット行いました。

セルフPNFストレッチング群は、自分で太もも裏を抱えて、それを押し返す形で10秒ホールド、そのあと10秒リラックスという手順で行いました。(セット数は、論文中に記載が無いため不明。)

介入期間は4週間で、週3回の頻度でストレッチングを実施しました。なお、ストレッチングは実験者の監督下で行われました。

4週間の介入の結果、どちらの群も統計学的有意にROMは増加しましたが、変化量はスタティックストレッチング群よりもセルフPNFストレッチング群の方が大きかったと報告されています。

passive SLR-Yildirim2016

さて、こちらの実験ではセルフPNFストレッチングの方が柔軟性向上の効果が大きいという結果でしたが、ここでも気になる点があります。

それはセルフPNFストレッチング群のセット数が記載されていないことです。スタティックストレッチングが30秒×10セットというプログラムが設定されていることを考えると、本当にセルフPNFは10秒ホールド-10秒リラックスの1セットだけなのかという疑問があります。

また、さきほどは「PNFストレッチング」と一括りにしてリスト化しましたが、セルフPNFとパートナーが実施するPNFを、果たして同じものとみなしてよいのか、という疑問もあります。

PNFストレッチングに関する調査は、全体的にみて研究の方法論的に低品質のものがまだまだ多いことが指摘されています7

まとめ

この記事では、PNFストレッチングが柔軟性に与える影響について報告された論文を確認してきました。

一般的にPNFストレッチングは他のストレッチングの方法と比べて、柔軟性向上の効果が高いと言われることが多いですが、今回まとめたものを見る限りでは、スタティックストレッチングとPNFストレッチングを比較したときに、現状では「PNFの方が効果的」と言えるような報告は揃っていないという印象です。

また、PNFストレッチングの内容に研究間のばらつきがあることにより、どのような形式(ホールド&リラックスの時間や、反復回数など)で行うのが効果的かを明確に判断することが難しいという問題もあります。

とはいえ、PNFストレッチングには短期的にも中長期的にも、柔軟性向上の効果が期待できることは間違いないでしょうし、PNFストレッチングが劣っているという報告が揃っているわけでもありません。

PNFストレッチングは他のストレッチングの方法よりも、トレーナーのスキルやクライアントの習熟度が結果に影響を与えると考えられます。実際に現場でPNFストレッチングを処方している場合で、スタティックストレッチングよりも大きな効果が得られていると感じるのであれば、そのやり方を続けて良いと思います

一方で、トレーナーがパートナーストレッチングを施すシーンを想定したとして、ストレッチングを行う目的が柔軟性の維持・向上+リラクゼーション効果を意図している場合は、PNFで随意収縮を要求することがデメリットとなる可能性もあります

なぜなら、パートナーストレッチングの良さの一つとして、「寝転んでいるだけで良い」ということを挙げるクライアントは少なくないからです。そのような方にとって、「能動的な何か」をさせられることは不満要素となるかもしれません。このあたりはクライアントの性格にも左右されます。

「スタティックとPNF、どちらの方が良いか」という問いには、結局はいつものように「何を目的に行うのかを考えて、状況に応じて使い分け」ということになります。

次は、PNFストレッチングがパフォーマンスに与える影響についてまとめる予定です。

PNFストレッチングがパフォーマンスに与える影響 PNFストレッチングが直後のパフォーマンスに与える影響|論文まとめ

2018年7月7日 追記

理学療法士の西さんからTwitterでコメントをいただきました。

ATの佐々部さんからは、PNFストレッチングの収縮強度について質問いただきました。

参考文献

*Borgesら(2017)のレビュー論文から抜粋した文献はここには含まていません。それらについてはBorgesらの原文で確認をお願いいたします。

  1. Borges, MO, Medeiros, DM, Minotto, BB, and Lima, CS. Comparison between static stretching and proprioceptive neuromuscular facilitation on hamstring flexibility: systematic review and meta-analysis. Eur J Physiother 20: 12–19, 2018.
  2. Bradley, PS, Olsen, PD, and Portas, MD. The effect of static, ballistic, and proprioceptive neuromuscular facilitation stretching on vertical jump performance. J strength Cond Res 21: 223–6, 2007.
  3. Christensen, BK and Nordstrom, BJ. The Effects of Proprioceptive Neuromuscular Facilitation and Dynamic Stretching Techniques on Vertical Jump Performance. J Strength Cond Res 22: 1826–1831, 2008.
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  6. Ghram, A, Damak, M, and Costa, PB. Effect of acute contract-relax proprioceptive neuromuscular facilitation stretching on static balance in healthy men. Sci Sports 32: e1–e7, 2017.
  7. Hill, KJ, Robinson, KP, Cuchna, JW, and Hoch, MC. Immediate Effects of Proprioceptive Neuromuscular Facilitation Stretching Programs Compared With Passive Stretching Programs for Hamstring Flexibility: A Critically Appraised Topic. J Sport Rehabil 26: 567–572, 2017.
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  10. Konrad, A, Stafilidis, S, and Tilp, M. Effects of acute static, ballistic, and PNF stretching exercise on the muscle and tendon tissue properties. Scand J Med Sci Sports 27: 1070–1080, 2017.
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