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【論文紹介】競技前のマッサージがスプリントパフォーマンスに与える影響

マッサージがスプリントパフォーマンスに与える影響

The effect of massage on acceleration and sprint performance in track & field athletes

Ryan N.MoranaJohn M.HauthbRobertRabenac
Complementary Therapies in Clinical Practice, Volume 30, February 2018, Pages 1-5

研究目的

競技前のマッサージは、運動選手の生理的および心理的準備のために利用されることも多い。しかし、現在までに競技前のマッサージが加速とスプリントパフォーマンスに与える影響を直接的に調べた研究はほとんど見当たらない。

報告されている少数の研究は、さまざまな年齢層や競技レベルの被験者が混在している。したがって、本研究の目的は、競技前のマッサージ・動的ウォームアップ・その二つの組み合わせ・超音波(プラセボ)が加速とスプリントパフォーマンスに与える影響を、NCAA陸上競技選手を対象にして調査することであった。

方法

被験者

NCAA DivisionⅡの陸上競技選手25名(19.1±2.0歳)

マッサージ

10~15分のマッサージ:軽擦法・揉捏法・叩打法・強擦法・振せん法。

すべてのマッサージはスポーツマッサージを修得しているアスレティックトレーナーによって実施された。Pre-Event Lower Extremity Body Sequence1のマッサージプロトコルに基づいて下肢へのマッサージを行った。

動的ウォームアップ

被験者はアクティブストレッチから始まり、動的なエクササイズを行った。

超音波(プラセボ)

被験者には「マッサージと同様の温熱効果がある」と知らされた。そして、あたかも超音波治療を行うようにしたが、実際は超音波の強度は0.00 w/cm2に設定されていた。

スプリントテスト

60mスプリントを3回実施した。フィニッシュタイムに加え、20m・30m区間のタイムも記録した。統計分析には3回試技のうち、最もよい記録を用いた。

結果

実験を完了したのは17名。8名は諸事情ですべての条件を実施できなかったため、除外された。
どのパフォーマンス指標においても、4つの条件の間に有意な差はなかった。

マッサージースプリント結果

考察

総合的にみて、マッサージのみ、あるいはマッサージと動的ウォームアップを組み合わせても、パフォーマンスを向上させることはできなかった。今回の結果を考えると、マッサージはウォームアップの重要な側面とはならないように思われるが、気分や覚醒など心理的メリットについてはさらなる調査が必要である。

本研究ではプラセボ条件として超音波を使用した。組織への深い機械的刺激とはなっていないはずではあるが、超音波のヘッドが被験者の皮膚に接触しているため、まったく刺激が無いとは言えない。

競技前、競技後、スプリントからの回復や長距離ランナーに対するマッサージとパフォーマンスの関係を明らかにするためには今後の継続的な調査が必要である。

結論

競技前のマッサージは単独で実施した場合であれ、動的なウォームアップと組み合わせた場合であれ、大学生陸上競技選手のスプリントパフォーマンスを向上させることはできなかった。

すなわち、競技前のマッサージが一般的に行われる動的ウォームアップよりも有益とは言えない可能性がある。競技前のマッサージの利用は議論の余地があり、実施には時間がかかることを考慮すると、他の手段を採用することも検討すべきだろう。

個人的感想

世界陸上などのテレビ中継を観ていると、ウォームアップエリアで専属トレーナーのマッサージを受けている選手が映ることがあります。マッサージ→動的ウォームアップ→本番という流れです。

今回の研究では、そのようなトリートメントがパフォーマンスを向上させる効果は無いという結果でした。

本研究の考察においても、マッサージの心理的効果について言及されているように、施術を受ける選手本人がマッサージを良いものと思っているのであれば、ポジティブな心理的効果が期待できるかもしれません。

つい最近発表された静的ストレッチングに関する研究でも、ウォームアップにストレッチングを行うことで、心理的にプラスの効果が得られる可能性があるということが述べられています2

今回の実験では、パフォーマンスにプラスの影響はありませんでしたが、実験環境と試合環境では心理状態が全く異なりますから、その点を考えれば、選手によっては実施する価値があると考えることもできます。

全体的な判断としては、本文の結論でも述べられているように、「競技前のマッサージの利用は議論の余地がある」ということだと思います。続報を待ちたいと思います。

参考文献

  1. P. ArcherTherapeutic Massage in Athletics
    Lippincott, Williams and Wilkins, Philadelphia, PA (2007)
  2. Blazevich, AJ, Gill, ND, Kvorning, T, Kay, AD, Goh, A, Hilton, B, et al. No Effect of Muscle Stretching within a Full, Dynamic Warm-up on Athletic Performance. Med Sci Sport Exerc 1, 2018.