簡単な論文検索―初心者でも文献データベースを使わずに探す

Evidence-based practice(科学的根拠に基づいた実践)というコンセプトが広まるにつれて、トレーナー等の運動指導者においても、一次情報である研究論文から情報を仕入れる必要性が高まってきました。とはいえ、現場で働きながら、空き時間を見つけて論文を読むことは容易ではありません。
そこで、比較的手軽に研究論文ベースの情報にアクセスする方法や、なるべく楽をして英語論文の内容を把握する方法などをご紹介します。

文献データベースを使わずに,論文情報に触れる

研究論文を検索するときに使うものと言えば、PubMedやGoogle Scholarをはじめとした文献データベースです。

しかし、慣れていない人にとっては、どのような検索ワードを入れればよいのか等、分かりにくいところもあると思います。そこで、普段から使い慣れている通常のGoogle検索を使って研究論文ベースの情報にアクセスする方法を見ていきたいと思います。

たとえば「筋肥大」についての学術的な情報を得たいとします。ところが、Googleで「筋肥大」と検索すると、検索上位には一般向けのカジュアルな記事が表示されることが多く、少々物足りない内容であることに加えて、情報の信頼性はかなり落ちます。

 

そこで、より学術的な内容を記した記事を上位に表示させるために「調べたい語句(今回であれば筋肥大)」に「学術的な文章で使われそうな語句」を追加して検索します。

 

調べたい語句 + 学術的な語句

学術的な語句という表現は曖昧ですが、「論文ベースの学術的な記事を書く上では欠かせないが、カジュアルな記事では使われないであろう語句」とここでは定義します。
たとえば、「統計(学)的有意」や「コントロール群」「対照群」、「RCT」「無作為化比較試験」などが挙げられます(表記ゆれがあるものは、同じ意味を表すものであっても何パターンか試すとよいです)。

「筋肥大 統計学 有意」で検索してみます。

狙い通り、英語論文をベースに日本語で解説してくれているページが上位に表示されました。

ただ、うまくいくことばかりではありません。
「レジスタンストレーニング 統計学 有意」で検索したところ、本当の論文ばかりが上位に表示されてしまいました。

もちろん、それらを読むのは良いのですが、入口として、なるべく易しいものを求めている場合は、これでは都合が悪いので、さらに検索ワードを追加します。

このとき追加する語句は「ブログ」です。「レジスタンストレーニング 統計学 有意 ブログ」で検索すると、無事見つけることができました。

このように検索ワードを少し工夫することで、通常のGoogle検索であっても、学術的な情報にアクセスすることができます。注意しなくてはいけないのは、このようなブログ記事は、あくまでも研究論文をベースに書かれたものなので、執筆者のフィルターを通している時点で一次情報ではありません。すべてを信じるのではなくて、あくまでも情報の入口として活用し、正確に理解するためには原文に触れることが必要だと思います。

論文検索の糸口となるブログ記事

一般向けの記事ではあまり使われないような語句を使った記事を書いている方たちは、記事内で参考文献を示してくれていることがほとんどです。記事で紹介されている論文のタイトルをコピーして検索すれば、それに関連する論文を更に見つけることもできます。論文の検索に慣れていないときに、求めている情報群にアクセスするための糸口として、この方法は非常に有効です。

 

英語論文の壁を乗り越えるためには?

上述の方法で論文ベースのブログ記事を読んでいると、参考文献は英語の論文が多いことに気づくはずです。これは言語に関しては、英語で検索する方が確実に質の高い論文を見つけることができるからです。また、英語の方が圧倒的に検索結果の件数が多いです。(例:論文検索サービス『Google Scholar』で「スタティックストレッチ」と検索=173件、「静的ストレッチ」と検索=216件、「static stretching」と検索=415,000件)

とはいえ、英語で検索をして、なんとか面白そうなタイトルの英語論文を見つけたものの、本文を読むのはあまりにも大変…ということもあるかと思います。それに、実際のところ一本の論文から新たに得られる知識は、それほど多くはありませんので、投資した時間のわりに得られるリターンがあまりにも少ないということになりかねません。それでは論文を読む気が失せてしまうと思うので、なるべく負担を減らす方法を考えたいと思います。

論文タイトル + 日本語キーワードで検索

これは、気になっている論文のタイトルが手元にあるときのアプローチ方法です。英語論文のタイトルに「その論文を日本語で紹介するときには必ず出てくるであろう単語(日本語)」を追加して検索します。

実際にプロセスを確認していきます。ここでは、気になっている論文が「Ayala et al. 2016 Acute and Time-Course Effects of Traditional and Dynamic Warm-Up Routines in Young Elite Junior Tennis Players」だとします。

論文タイトルだけを入力して検索すると、当然ですが英語のページが上位に表示されます。

では、この論文を紹介してある日本語ページを探しだすために、この論文を日本語で紹介するとしたら、「絶対に使わざるをえない単語は何か」をタイトルから推測します。Acute(急性・即時的)やTime-course(経時変化)などは一般的であり、限定できるような単語ではないので避けます。

また、TraditionalやDynamicは、そのまま「トラディショナル」「ダイナミック」と表記する人もいれば、「伝統的」「動的」と表記する人もいるかもしません。

同様にWarm upも「ウォーミングアップ」と「ウォームアップ」という表記ゆれが存在します。

となると、Tennisが良さそうです。Tennisはテニスとしか表記のしようがありませんし、この論文はタイトルからしてテニス選手に特化した内容ですから、日本語で解説するときも絶対に「テニス」の文字は含まれるはずです。

実際のところ、色々考えずに適当に日本語を入れるだけで、うまく見つかることがあることも多々ありますが、考え方を示すために紹介しました。トレーニング科学系の論文であれば、とりあえず「筋」と追加すれば、見つかるときもあります。

では、先ほどの「論文タイトル+テニス」で検索しますが、その前にひとつ注意点があります。

検索エンジンは「単語A 単語 B」と「単語B 単語 A」の入力順では異なる検索クエリとして処理していますので、「単語A 単語 B」の検索と「単語B 単語 A」の検索では異なる順位で検索結果が表示されます。

そのため、今回は「テニス」をより強調するために「テニス 論文タイトル」の入力順序で検索をします。

ご覧のとおり、Acute and Time-Course Effects of Traditional and Dynamic Warm-Up Routines in Young Elite Junior Tennis Playersの論文を紹介した当ブログの記事が表示されました。

【論文紹介】スタティック or ダイナミックストレッチングを組み込んだウォームアップルーティーンがエリートジュニアテニスプレイヤーの競技特異的パフォーマンスに与える影響

追加する日本語キーワードの見当がつかない等の場合は、検索結果を日本語のページに限定することでも、似たような結果を得ることができます。


論文タイトルを入力して検索をし、検索結果の画面で[ツール]をクリック→[すべての言語]→[日本語のページを検索]をクリックすることで可能です。

↓[日本語のページを検索]に限定したときの検索結果

このように、うまくいけば英語論文のおおまかな内容を日本語で把握することができます。

もし、その論文を日本語で紹介してくれているページが存在していなければ、この方法は使うことはできません。

 

Google翻訳に頼る

Google翻訳は2016年11月頃に翻訳の精度が大幅に向上したため、英語論文を読む際にも、ある程度の内容を把握するのであれば、十分に使えるツールとなりました。

Google翻訳の使い方は、ここでは省略しますが、スマートフォンで英語の文献を読む際にGoogle翻訳アプリの「タップして翻訳」を使うと、驚くほど手軽に日本語訳を確認することができますので、その方法をご説明します。

 

Google翻訳「タップして翻訳」機能を使う

タップして翻訳を使うためには、あらかじめ簡単な設定が必要です。まずは、Google翻訳のアプリをインストールしてください。
開くと下のような画面が表示されますので、左上のメニューをタップ→[設定]と進みます。

 

 

 

 

 

 

設定画面の[タップして翻訳]→[タップして翻訳を有効にする]をONにします。これで事前に行う設定は完了です。

 

 

 

 

 

 

 

 

では、実際の使い方を見ていきます。英語のページで、翻訳したい部分を選択して「コピー」をタップします。

 

すると、右上にアイコンが現れるので、タップします。

 

↓ポップアップで日本語訳結果が表示されました。

 

使えるものは使って,楽をする

精度が上がったとはいえ、日本語訳がおかしいところは頻繁に見受けられます。ましてや、英語論文であれば専門的な単語も出てきますので、分かりづらいときもあります。それでも、「どのあたりにどのような内容が書いてあるか」くらいは把握できると思います。事前に全体的な主張の方向性を確認できるだけでも、英語の読解は格段に容易になります。さらに、自分の得意な分野であれば、予備知識が十分にあるので理解しやすいと思います。

翻訳を使うことに対して否定的な意見の方もいるかもしれませんが、私たちトレーナーにとっては、英語の試験のように「この副詞は、どこを修飾していて…」等を理解するよりも、現場に活用できる情報を論文から抽出することが一番の目的だと思いますので、使えるものは使って、楽できる部分は楽をしてもよいと思います。

もちろん、英語の勉強をして、翻訳ツールを介さずに原文を読める方が理想であることは間違いありません。

 

効率的に論文を検索する ― 論文検索Qross

7つの検索サイトから論文を横断検索

論文検索に慣れてきたら、検索データベースを使うことで、より多くの論文にアクセスできるようになります。そんな時、各データベースで、個別に検索をかけなくても論文検索Qrossを使えば、7つのサイト(CiNii, J-STAGE, PLOS, PubMed, IEEE, ScienceDirect, SpringerLink)で、横断的に論文を検索することができます。

検索結果画面↓

論文単位のインパクト指標「Altmetrics」

論文検索Qrossでは、論文単位のインパクト指標としてSNSスコアが表示されます。Mendeleyにインポートされた件数や、TwitterやFacebookでシェアされた数も参考にしながら、論文の取捨選択ができます。

iOS用・Android用のアプリも

論文検索Qrossにはアプリ版もあります。アプリ版では、J-STAGE・CiNii・PubMed・PLOSの4つのデータベースを横断的に検索することができます。個人的に、電車での移動中やちょっとした待ち時間に論文検索を行うことが多いので、アプリ版があるのは助かります。

 

新着文献を手に入れる

Google Scholarアラートの自動配信を利用する

情報は日々アップデートされていくので、常に新しい情報を入手することを心がける必要があります。かといって、毎日毎日、論文の検索ばかりできるわけではないと思います。そんな時に役立つのが、Google Scholarアラートです。Google Scholarアラートは論文検索サービス「Google Scholar」が提供する、指定したキーワードに関連する新着論文をメールで自動配信してくれるというものです。下の写真は「static stretching」に関連する新着論文がまとめて送られてきたメールです。

指定するキーワードによっては、それほど頻繁に新着論文が出ないこともあります。それでも、Scholarアラートからのメールは定期的に届きます。自分が求めているような内容の論文が無いことも多いので、さっと確認したのち、メールを削除することもしばしばあります。

Google Scholarアラートの利用方法

まず、通常のサーチエンジンで「Google Scholar」と検索し、Google Scholarのページにいきます。上部に「アラート」という項目がありますので、そちらをクリックします。

すると、下の画面が出てきます。

[アラートを作成]をクリックします。

 

[アラートのキーワード]の欄に、手に入れたいと思っている情報の単語を入力します。(例:resistance training)
[メール]の欄には、Scholarアラートからのメールを受け取るメールアドレスを入れて、[アラートを作成]をクリックすれば完了です。

今回,紹介した手法の限界

この記事は、「なるべく手軽に」という部分にフォーカスして、構成しました。そのため、論文検索の先にある「論文を批判的に読む/解釈する」という、いわば核となる内容については言及できていません。

研究論文であっても、論理の飛躍は往々にして見られますので、すべてを鵜呑みにしてはいけないという点はご注意ください。

英語論文の読解に関しては、おすすめ書籍でも紹介している『英語論文を読みこなす技術』をご参照ください。

今後の展望

論文検索に慣れてきて、英語への抵抗も緩和されてきたら、英語論文を批判的に読むというステージへと進むことが理想です。しかし、「批判的に読む」と言っても、どのように実現したらよいのか、これは非常に難しい問題です。

大学院や研究機関に所属して、研究がある環境に身を置くというのは、批判的思考力を養う上で最も効果がある方法の1つだと思いますが、最も実現が難しい事だとも思います。

それよりかは実現可能なアプローチとして、研究論文の扱いに慣れている人物との人脈を築き、論文の内容に関してディスカッションするという方法があります。

それも難しいという場合は、研究論文を解説してくれているブログ記事を参考にして、その執筆者が、紹介している論文に対して、どのようなツッコミを入れているかを辿っていくという方法もあります。これは双方向のやり取りとはなりませんが、着眼点の参考にはなるはずです。

まとめ

最近は、研究者ではない立場であっても、専門職である以上は学術論文からの情報収集が求められる流れになってきています。そこで、トレーナーの方々が現場で活動しながら、なるべく負担が少ない形で学術論文の情報にアクセスする方法を中心に紹介してきました。
もちろん慣れてきたら、上述の通りもっと深く追求する方が良いのは間違いないですが、トレーナーの場合は研究のために論文を読むわけではないので、手軽に継続しやすいスタイルというのも大切だと思っています。
まずは、「学術論文に慣れ親しむところから」です。どれかひとつだけでも参考になるものがあれば幸いです。