【論文紹介】グラストンテクニック(IASTM)の非特異的腰痛と柔軟性に対する急性効果

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Immediate effects of Graston Technique on hamstring muscle extensibility and pain intensity in patients with nonspecific low back pain

Jong Hoon Moon, Jin-Hwa Jung, Young Sik Won, Hwi-Young Cho
J Phys Ther Sci. 2016 Jun; 28(6): 1852–1855.

グラストンテクニックなどのIASTM( Instrument Assisted Soft Tissue Mobilization )は、ステンレス製のツールを用いて軟部組織リリースを行うことで、運動制限の改善などをもたらすものです。

目的:非特異的腰痛患者に対するグラストンテクニックの効果を調査

先行研究において、グラストンテクニックを用いた施術はハムストリングスの柔軟性を改善することが報告されているが、それらは健康な人を対象にした研究である(1)。そのため、本研究ではハムストリングスの柔軟性が低下した非特異的腰痛の患者に対するグラストンテクニックの効果を調査することを目的とした。

方法:痛みと柔軟性を評価

被験者

グラストンテクニック群
性別:男性8名/女性4名
年齢:34.17±4.91歳
身長:169.25 ± 9.18cm
体重:61.92 ± 9.87kg

スタティックストレッチング群
性別:男性8名/女性4名
年齢:35.25 ± 5.86歳
身長:168.50 ± 8.68cm
体重:61.83 ± 11.37kg

被験者選定の条件は以下のとおり。

(1)非特異的腰痛を有して最低2ヶ月
(2)立位体前屈で指が床につかない
(3)受動的SLRが70°以下
(4)受動的に股関節を屈曲(膝屈曲位)させたときに、膝がほとんど胸に触れる
(5)神経症状を有していない
(6)VASスコア3以上

評価項目
介入の前後にハムストリングスの柔軟性と腰痛の程度を評価した。
柔軟性は長座体前屈で評価し、痛みの程度はVASを用いた。
実験は一人の評価者と、もう一人の検者で行われ、それぞれ盲検化された。

実験内容:
グラストンテクニック群
被験者はうつ伏せになり、膝は30~60°屈曲位とした。ハムストリングスにマッサージクリームを塗布し、ツールを用いて臀部から膝窩にかけての範囲を60秒かけて30回擦った。

スタティックストレッチング群
被験者は仰向けになり、ハムストリングスのスタティックストレッチングを実施した。伸張強度は5秒間隔で3回にわたり増加させ、最終角度で45秒間ストレッチングをし、さらに拮抗筋である大腿四頭筋の刺激を行った。

結 果:柔軟性が増加・腰痛は減少

 

考察:グラストンテクニックはシンプルかつ効果的なアプローチ

上記の結果で示したとおり、グラストンテクニック群とスタティックストレッチング群ともにハムストリングスの柔軟性と痛みの程度に対して、ポジティブな影響を与えた。しかし、グラストンテクニックの方が、柔軟性の変化において、より効果的であった。

本研究では、グラストンテクニックを用いた60秒間の施術を1度行っただけで、ハムストリングスの柔軟性を改善させることができた。もし、非特異的腰痛がハムストリングスの柔軟性欠如が原因で生じているのなら、グラストンテクニックによるアプローチはシンプルかつ効果的である。

本研究のリミテーションとして、被験者数が少ないことによる結果を一般化することの問題、採用したテストの信頼性と妥当性の問題、長期的な適応については明らかではないことが挙げられる。

本研究結果においては、グラストンテクニックはスタティックストレッチングよりも、非特異的腰痛の患者に対するハムストリングスの柔軟性改善に効果的であった。

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個人的感想:今後の報告を待つ必要あり

グラストンテクニックなどのIASTMと言われるツールに関する研究は数が多くないのが現状です。IASTMに関する2016年のシステマティックレビューでは、「現時点では、IASTMの効果を裏付ける質の高いデータは乏しく、これにはIASTMの研究の方法論が確立されていないことも関係していると思われる。今後の研究結果を待たなければならない。」といったことが述べられています(2)。今回の論文も、記述が簡素で内容について不明瞭な部分もありますから、質が高いとは言えないかもしれません。

本研究は、あくまでもグラストンテクニックとスタティックストレッチングを比較した結果、グラストンテクニックの方が柔軟性の改善が大きかったということを示すものですので、グラストンテクニックがとにかく優れている、ということを意味しているわけではありません。さらに言えば、これは「本研究で用いたスタティックストレッチングの実施方法」と「本研究で用いたグラストンテクニックの実施方法」の比較ですので、スタティックストレッチングの実施内容(伸張時の姿勢・強度・時間等)あるいはグラストンテクニックの施術方法が変われば、結果も変わってくる可能性は十分にあります。

それから、グラストンテクニックによる刺激がストレッチトレランスを変化させた結果、長座体前屈のスコアが大幅に改善したという可能性も考えられます。ただし、これに関しては、今回は柔軟性を評価する測定項目が長座体前屈のみですので、物理的な変化が生じたのか、それとも感覚的な変化によって可動域が変化したのか、というメカニズムを明らかにすることはできません。

柔軟性の変化における、物理的要因(Mechanical Theory)と感覚的要因(Sensory Theory)についてはWeppler and Magnusson(2010)を参照。

このテーマに関しては、まだまだ分からないことが多いですが、グラストンテクニックなどのIASTMの効果を実感している方も多数おられるとは思います。現場で実感する効果と研究で出される結果にギャップが存在するのは、(実際に効果があるということを前提にすれば)先に述べたように、研究の方法論が確立されていないことが原因の一つである可能性もあります。今後の研究報告を待ちたいと思います。

参考文献

  1. Kim DH, Kim TH, Jung DY, et al.: Effects of the Graston technique and self-myofascial release on the range of motion of a knee joint. Korean Soc Physic Med, 9: 455–463. 2014
  2. Cheatham SW, Lee M, Cain M, Baker R. The efficacy of instrument assisted soft tissue mobilization: a systematic review. The Journal of the Canadian Chiropractic Association. 60(3):200-211. 2016.
  3. Weppler CH, Magnusson SP. Increasing muscle extensibility: a matter of increasing length or modifying sensation? Phys Ther 90:438–449. 2010

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