Foam Rolling for Delayed-Onset Muscle Soreness and Recovery of Dynamic Performance Measures
Gregory E. P. Pearcey, David J. Bradbury-Squires, Jon-Erik Kawamoto, Eric J. Drinkwater, David G. Behm, Duane C. Button
J Athl Train. 2015 Jan; 50(1): 5–13.
doi: 10.4085/1062-6050-50.1.01
背景
マッサージはリカバリーのアプローチとして広く用いられており、エクササイズ後のマッサージは筋肉痛の痛みの軽減と関係していることが報告されている1。フォームローリングは、フォームローラーを用いたセルフマッサージと言うこともできる。そのため、フォームローリングが筋肉痛からの回復を早め、パフォーマンスの維持に役立つ可能性はおおいに考えられる。
そこで本研究は、セルフで行うフォームローリングが、高強度トレーニング後の圧痛閾値、スプリント、パワー、アジリティ、筋持久力に対する回復効果を検証することを目的とした。
方法
被験者
8名の男子学生(年齢22.1±2.5歳、身長177.0±7.5㎝、体重88.4±11.4kg)であった。被験者は趣味レベルの筋トレを実施していた。
実験手順
エクササイズ
バーベルバックスクワットを60%1RMの重量で10回×10セット実施した(しゃがむ深さは写真を参照)。スクワットのテクニックはNSCAのエッセンシャルに従った。動作スピードは下降局面4秒、ボトムでのストップ無し、上昇局面1秒とした。セット間レストは2分に設定した。
フォームローリング
外径10.16cmのフォームローラーを使用した。まずは、筋の遠位側にフォームローラーをセットし、耐えられるだけ自分の体重を乗せ、前後に身体を動かした。テンポは1分あたり50回できる速さ(1ローリング1.2秒)に設定した。下肢の各部位45秒×1セット実施し、トータルの実施時間は20分間(部位間のレストを含む)であった。フォームローリングは、エクササイズ実施直後、24時間後、48時間後の3度行った(各種目の実施方法は写真を参照)。
評価項目
圧痛閾値
圧を加えた時に痛みを感じる最初のポイントを圧痛閾値として評価した。被験者はリラックスした立位とし、圧痛計を右大腿四頭筋に押し当て、痛みを感じたら被験者自身が「yes」と申告することとした。3回測定し、平均値を記録した。
スプリントスピード
30mスプリントを行った。ウォームアップのあと、全力での試技を2回行った。計測には光電管を使用した。1つめの光電管の0.5m後ろからスタートし(スタート時のリアクションタイムの影響を除くため)、1つめの光電管を通過したタイミングで計測を開始、30m先の2つめの光電管を通過したときをフィニッシュとした。2試技のうち速い方のタイムを採用した。
パワー
パワーの指標として、立ち幅跳びを行った。2度測定し、良い方の値を記録した。
アジリティー
T-テストを実施した。T-テストは、NSCAのエッセンシャルに記載されている方法に従った。2回実施し、速い方のタイムを記録した。
筋持久力
70%1RMの重量でのバーベルバックスクワットの最大反復回数を測定した。動作速度は、下降局面1秒、ボトムでの停止無し、上昇局面1秒とした。反復継続が不可になるか、NSCAが定めるエクササイズテクニックが維持できなくなったところで試技を終了とした。この測定は、疲労を考慮して1度の試技で完了とした。
結果
フォームローリングは圧痛に対して中程度~大きい効果があった(Cohen d range, 0.59 to 0.84)。その他に効果があったのは、スプリントタイム(Cohen d range, 0.68 to 0.77)、パワー(Cohen d range, 0.48 to 0.87)、筋持久力(Cohen d range, 0.54)であった。
考察
本研究結果から、フォームローリングは筋肉痛からの回復を促進し、筋肉痛が生じるような強度の高いエクササイズ後のパフォーマンスの低下を緩和する効果が期待できると言える。より具体的には、フォームローリングは圧痛閾値を上昇させ、スプリントタイム、パワー、筋持久力を改善させた。我々の結果は、フォームローリングが筋肉痛とパフォーマンスの低下を軽減させうることを示す強い根拠である。
今回の実験で、アジリティに対しては大きな効果が得られなかったのは、T-テストは多方向への動きを含んだ複雑なアクションの要求をされるからだと考えられる。ポジティブな効果が認められたスプリントやパワーのテストは単一方向への加速が必要とされる動作である。
スクワットの反復回数テストに関しては、フォームローリングを行ったグループは48時間後までに通常時のパフォーマンスを取り戻したが、コントロールグループは72時間後になって初めて通常時のスコアまで回復した。
おそらく、フォームローリングによる筋の圧迫はマッサージに似たような生化学的な変化をもたらしたのだと想定される。
我々の実験で行ったフォームローリングのプログラム(時間、対象とする筋群、強度や回数)が、ベストな方法であったかは明らかではない。今後は回復を目的としたフォームローリングの最適な頻度、強度、実施タイミング、圧のかけ方について検証されることが望まれる。
結論
アスリートはトレーニングによって痛みや疲労を感じていたとしても、連日トレーニングや試合を行わなければならないこともある。重度の筋肉痛の場合は、身体能力の低下は72時間程度続くこともある。そのような筋肉痛の悪影響に対する方法として、トレーニング直後および24時間毎の20分間のフォームローリングは、筋痛や動的パフォーマンスの低下の可能性を減らすかもしれない。自分で行うフォームローリングは、比較的手ごろな価格で、実施が容易で、効率的なリカバリー手段を探しているアスリートにとっては有益であろう。
個人的感想
考察では「マッサージと同様の変化が得られたのでは?」ということでしたが、どうなのでしょうか。マッサージの生理学的反応に関しては懐疑的な報告もあり、Hilbertら(2003)によれば、マッサージを行っても最大筋力やROMの低下抑制、好中球の数に変化をもたらすことはできず、疼痛の緩和のみという限定的な効果に留まったことが報告されています2。
仮に主観的な痛みだけの緩和であった場合、その表面的な変化によって疲労の度合いを過小評価してしまい、(本当はまだ回復期間を設けるべきなのに)不適切なタイミングでトレーニングセッションを組み込んでしまうというリスクがあることも理解しておく必要があると思います。
一方で、精神的な面に対する影響については、がん患者を対象にした研究ですが、マッサージが気分の改善に役立つというポジティブな影響の報告もあります3,4。
ちなみに本文の考察部分で述べられている仮説やメカニズムについては大幅に省略しています。気になる方はフルテキストにアクセスして、ご確認ください。
参考文献
- Zainuddin, Z., Newton, M., Sacco, P. & Nosaka, K. Effects of massage on delayed-onset muscle soreness, swelling, and recovery of muscle function. J. Athl. Train. 40, 174–80 (2005).
- Hilbert, J. E., Sforzo, G. A. & Swensen, T. The effects of massage on delayed onset muscle soreness. Br. J. Sports Med. 37, 72–5 (2003).
- Listing, M. et al. Massage therapy reduces physical discomfort and improves mood disturbances in women with breast cancer. Psychooncology. 18, 1290–1299 (2009).
- Kutner, J. S. et al. Massage therapy versus simple touch to improve pain and mood in patients with advanced cancer: a randomized trial. Ann. Intern. Med. 149, 369–79 (2008).