【論文紹介】静的および動的ストレッチのパフォーマンスへの影響は翌日まで持ち越されるかもしれない

静的および動的ストレッチのパフォーマンスへの影響は24時間以上持続しうる

Static stretching can impair explosive performance for at least 24 hours.

Haddad M, Dridi A, Chtara M, Chaouachi A, Wong del P, Behm D, Chamari K.
J Strength Cond Res. 2014 Jan;28(1):140-6

研究背景:ストレッチがパフォーマンスに与える影響は,何時間後まで続くか?

近年では、静的ストレッチ後に、一時的にパフォーマンスが低下することが、多く報告されている。その中でも、静的ストレッチがもたらすネガティブな影響の持続時間について、Powerら(2004)は、静的ストレッチを終えてから120分後まで筋力低下が持続していたと報告している。そのため、静的ストレッチがパフォーマンスに与えるネガティブな影響は、最大で2時間続く可能性がある。

一方、動的ストレッチは、直後のパフォーマンスを高めることが報告されている。しかし、それらの研究は、動的ストレッチを行った直後の影響をみているものがほとんどであり、24時間後の影響について調べた研究は見当たらない。

そのため、本研究は静的および動的ストレッチを行ってから24時間後の、スプリント・立ち5段跳び・反復スプリント能力に対する影響を調べることを目的とした。

方法

被験者はサッカー選手であり、情報は以下のとおり。

全ての選手が、カウンターバランスを取った順序で3つの測定条件(静的ストレッチ・動的ストレッチ・コントロール)に参加した。

参加時のコンディションが統一されるように、クラブチームの栄養士と協同して、選手の食事内容をモニタリングした。脱水状態になることを避けるため、自由な水分補給は許可されたが、パフォーマンスに影響を与えうるカフェインやアルコールの摂取は禁止された。

静的および動的ストレッチ

静的および動的ストレッチは共通する5つの部位(大腿四頭筋・ハムストリングス・下腿三頭筋・内転筋群・腸腰筋)を行った。左右各30秒×2セット。

結果

立ち5段跳びと30mスプリントに関しては、コントロール条件と静的ストレッチ条件と比較して、動的ストレッチを行った条件において有意に良い成績が得られた。一方、静的ストレッチ条件は、コントロール条件と比較して、立ち5段跳びと30mスプリントにおいて、有意に悪い成績であった。反復スプリント能力に関しては、各条件間で差はなかった。

考察

本研究は、静的および動的ストレッチのパフォーマンスに与える影響が、24時間後まで持続しているかを調べた最初の研究である。今回の結果は、30mスプリントと立ち5段跳びに対する動的ストレッチのポジティブな効果は翌日まで持ち越されていたことを示している。一方で、静的ストレッチはそれらのパフォーマンスに対してネガティブな影響をもたらし、その影響は翌日まで持続していた。また、反復スプリントに関しては各条件で有意な差は見られなかった。

ストレッチがパフォーマンスに影響を与える要因として、筋腱スティフネスの低下などによる物理的な要因と、伸張反射等を抑制する神経的な要因の2つが提案されているが、本研究において神経系の応答がストレッチ後 24時間持続するとは考えにくい。

しかし、本研究はメカニズムを明らかにするための研究デザインではないため、今回の結果が生じ原因に関して確かな事を言うことはできず、今後の研究で明らかにされることが望まれる。

まとめ

本研究結果から、スプリントや水平方向へのジャンプ等の爆発的なパフォーマンスを要求される運動を行う前日には、動的ストレッチを行うことが望ましいことが示された。また、静的ストレッチはそれらの運動が予定されている前日は実施を避けるべきである。

個人的感想

なかなかインパクトのある研究です。本当に、ストレッチのパフォーマンスに対する影響が翌日に持ち越されるのか?という疑問は正直あります。しかも、各部位30秒×2セットですから、極端に長時間ストレッチをしているわけでもありません。ただ、「こういう報告もある」ということで、知っておいて損は無いかなと思い、紹介しました。

もちろん、この報告1本だけで結論を出すことはできませんが、ネガティブな影響を受けるリスクが少しでもある以上は、大切な試合の前日は入念な静的ストレッチは避けておくべきと言えるかもしれません。

参考文献

  1. Power, K, Behm, D, Cahill, F, Carroll, M, and Young, W. An acute bout of static stretching: Effects on force and jumping performance. Med Sci Sports Exerc 36: 1389–1396, 2004.
    27.